青森地方裁判所 昭和63年(ワ)465号 判決 1993年3月30日
原告(昭和六三年(ワ)
第四六五号事件)
室瀬一郎
原告(平成二年(ワ)第一一〇号事件)
小川良逸
同
藤井次男
原告(平成三年(ワ)第九一号事件)
徳差幸廣
同
杉山俊雄
原告(平成四年(ワ)第一一七号事件)
川端節三
原告ら六名訴訟代理人弁護士
渡辺義弘
同
横山慶一
被告
株式会社みちのく銀行
右代表者代表取締役
大道寺小三郎
右訴訟代理人弁護士
渡邊修
同
吉澤貞男
主文
一 原告室瀬一郎の、被告が同原告に対してした昭和六二年一一月一日付けの専任職への辞令の発令及び昭和六三年四月一日付けの新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効確認を求める訴え、及び原告小川良逸、同藤井次男、同徳差幸廣、同杉山俊雄、同川端節三の、同原告らが被告との間において、それぞれ別紙1(一)ないし(五)記載の各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を求める訴えをいずれも却下する。
二 被告は、原告室瀬一郎に対し、金五三七万二一二〇円、同小川良逸に対し、金三五四万五八六〇円、同藤井次男に対し、金二八七万〇五三〇円、同徳差幸廣に対し、金一五九万円、同杉山俊雄に対し、金一三二万六二八〇円、同川端節三に対し、金三二万五二〇〇円をそれぞれ支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その三を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告の原告室瀬一郎に対する昭和六二年一一月一日付けの専任職への辞令の発令及び昭和六三年四月一日付けの新専任職制度に基づく給与辞令の発令が無効であることを確認する。
2 被告の原告小川良逸に対する平成元年三月一日付け、同藤井次男に対する平成元年五月一日付け、同徳差幸廣、同杉山俊雄に対する平成三年二月一日付け、同川端節三に対する同年一二月一日付けの各専任職への辞令の発令がいずれも無効であることを確認する。
3 被告との間において、原告小川良逸が別紙1(一)記載の、同藤井次男が同(二)記載の、同徳差幸廣が同(三)記載の、同杉山俊雄が同(四)記載の、同川端節三が同(五)記載の、各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することをそれぞれ確認する。
4 被告は、原告室瀬一郎に対し、金一二六五万二〇二〇円、同小川良逸に対し、金九九八万四三四〇円、同藤井次男に対し、金五三三万二九三〇円、同徳差幸廣に対し、金三八四万一四六七円、同杉山俊雄に対し、金二六八万三三七四円、同川端節三に対し、金六〇万五二〇〇円をそれぞれ支払え。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 第4項につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 当事者
(一) 被告は、昭和五一年一〇月一日、株式会社青和銀行(以下「青和銀行」という。)と株式会社弘前相互銀行(以下「弘前相互銀行」という。)との合併により設立され、青森県下を中心に約一〇〇の支店を有する銀行業務を営む株式会社である。
(二) 原告室瀬一郎(以下「原告室瀬」という。)は昭和二六年四月一日に、同小川良逸(以下「原告小川」という。)は昭和二七年五月一日に、同藤井次男(以下「原告藤井」という。)は昭和二八年五月一日に、同徳差幸廣(以下「原告徳差」という。)は昭和二九年五月一日に、同杉山俊雄(以下「原告杉山」という。)は昭和二九年八月一日に、いずれも青和銀行に採用され、また、原告川端節三(以下「原告川端」という。)は昭和三〇年三月に弘前相互銀行に採用され、いずれも、その後の両行の合併により設立された被告の従業員となり、引き続き被告に勤務している。
(三) 被告には、被告の従業員で組織されている組合として、みちのく銀行従業員組合(以下「従組」という。)とみちのく銀行労働組合(以下「労組」という。)とがあり、原告らはいずれも従組に所属している。
2 被告の定年制
被告は、前記の合併の際に、定年制度については弘前相互銀行が採用していた六〇歳定年制を採用した。
3 本件専任職制度の提案と実施
(一) 被告は、昭和六一年二月三日の従組との団体交渉において、同年四月一日から給与体系等の人事制度を次のように改正・実施したいと提案した。
イ 満五五歳以上の基本給を凍結する。
ロ 満五五歳に達した管理職階者は、原則として翌月一日以降役職を変更し、別途創設する専任職とし従前の役職から外れる。
ハ 専任職の賃金は、直前役職の基本給に諸手当(直前役職の管理職手当、役職手当を除き専任職手当を加える)を加えたものとする。
(二) 右改正案については、被告と従組との間では合意が得られなかったが、被告と労組は、右改正案について協議の上、同年四月二八日、対象者を一般職行員全部とする具体案に合意し(以下「本件専任職制度」という。)、被告は、右制度を昭和六一年五月一日から実施した。
4 原告室瀬に対する専任職の発令
被告は、原告室瀬に対し、昭和六二年一一月一日付けで同原告を専任職にする旨の辞令を交付したが、同原告は右辞令には同意できないとして右辞令を直ちに被告に返還した。
5 本件新専任職制度の提案と実施
(一) 被告は、昭和六二年七月二八日、従組との団体交渉の場において、給与体系等の人事制度について本件専任職制度を次のように改正・実施したいとの提案をした。
イ 従前一般職行員のみに適用されていた専任職制度を庶務職行員にも適用する。
ロ 専任職発令とともに「業績給」を一律五〇パーセント減額する。
ハ 専任職手当を廃止する。
ニ 実施日は昭和六三年四月一日とし、五年間の経過期間を置く。
(二) 右改正案については、被告と従組との間では合意が得られなかったが、被告は、労組と協議の上、昭和六三年三月二三日、専任職制度について満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は、翌月一日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行し、専任職の基本給のうち業績給は別紙2記載のとおり段階的に削減して昭和六七年度以降は満五五歳時の五〇パーセントにし、専任職手当も同別紙記載のとおり段階的に削減して昭和六七年度以降は廃止し、賞与についても支給率を同別紙記載のとおり段階的に削減して昭和六七年度以降は二〇〇パーセントとすることに合意し(以下「本件新専任職制度」という。)、被告は、右制度を昭和六三年四月一日から実施した。
6 原告らに対する本件新専任職制度の実施
被告は、原告室瀬に対し、昭和六三年四月一日付けで本件新専任職制度に基づく賃金辞令を交付したが、同原告は右辞令を被告に返還した。
また、被告は、原告小川に対し平成元年三月一日付けで、原告藤井に対し同年五月一日付けで、原告徳差及び同杉山に対し平成三年二月一日付けで、原告川端に対し同年一二月一日付けで、それぞれ右原告らを専任職にする旨の辞令を交付したが、右原告五名はいずれも専任職とする発令には同意できないとして、いずれも右辞令を直ちに被告に返還した。
7 原告室瀬の定年退職
原告室瀬は、平成四年一〇月九日に被告を定年退職した。
8 原告らの被った不利益
(一) 原告室瀬が専任職に発令されなかった場合の月給は金三八万八四〇〇円、年収は金七一九万七〇〇〇円であったところ、本件専任職制度が実施されたことにより月給は金三七万四四〇〇円、年収は金六五五万九二〇〇円にそれぞれ減額され、年収は本件専任職制度が実施されなかった場合の九一パーセントとなった。なお、本件専任職制度実施後に本件新専任職制度が実施されたため、同原告が専任職に発令されなかった場合の賃金(月給・賞与)は別紙3(一)記載のとおりであったが、本件専任職制度及び本件新専任職制度により同(二)記載のとおりに削減され、同原告が定年までに受け取った賃金(金二五九五万七八八〇円)は、専任職の発令を受けない場合(金三八六〇万九九〇〇円)と比べ金一二六五万二〇二〇円の減収となり、それは同原告が専任職に発令されなかった場合に得たであろう賃金総額の約32.76パーセントにあたる。
(二) 原告小川が専任職に発令されなかった場合の賃金は別紙4(一)記載のとおりであったが、専任職に発令されたことにより同(二)記載のとおりに削減され、同原告が平成四年三月までに受け取った賃金(金一六三四万五一六〇円)だけをみても、専任職の発令を受けない場合(金二六三二万九五〇〇円)と比べ、少なくとも金九九八万四三四〇円の減収となり、それは同原告が専任職に発令されなかった場合に得たであろう賃金総額の約37.92パーセントにあたる。
(三) 原告藤井が専任職に発令されなかった場合の賃金は別紙5(一)記載のとおりであったが、専任職に発令されたことにより同(二)記載のとおりに削減され、同原告が平成四年三月までに受け取った賃金(金一六一二万八八七〇円)だけをみても、専任職の発令を受けない場合(金二一四六万一八〇〇円)と比べ、少なくとも金五三三万二九三〇円の減収となり、それは同原告が専任職に発令されなかった場合に得たであろう賃金総額の約24.84パーセントにあたる。
(四) 原告徳差が専任職に発令されなかった場合の賃金は別紙6(一)記載のとおりであったが、専任職に発令されたことにより同(二)記載のとおりに削減され、同原告が平成四年三月までに受け取った賃金(金七一四万一一三三円)だけをみても、専任職の発令を受けない場合(金一〇九八万二六〇〇円)と比べ、少なくとも金三八四万一四六七円の減収となり、それは同原告が専任職に発令されなかった場合に得たであろう賃金総額の約34.97パーセントにあたる。
(五) 原告杉山が専任職に発令されなかった場合の賃金は別紙7(一)記載のとおりであったが、専任職に発令されたことにより同(二)記載のとおりに削減され、同原告が平成四年三月までに受け取った賃金(金六〇六万一六二六円)だけをみても、専任職の発令を受けない場合(金八七四万五〇〇〇円)と比べ、少なくとも金二六八万三三七四円の減収となり、それは同原告が専任職に発令されなかった場合に得たであろう賃金総額の約30.68パーセントにあたる。
(六) 原告川端が専任職に発令されなかった場合の賃金は別紙8(一)記載のとおりであったが、専任職に発令されたことにより同(二)記載のとおりに削減され、同原告が平成四年三月までに受け取った賃金(金三二〇万九八〇〇円)だけをみても、専任職の発令を受けない場合(金三八一万五〇〇〇円)と比べ、少なくとも金六〇万五二〇〇円の減収となり、それは同原告が専任職に発令されなかった場合に得たであろう賃金総額の約29.26パーセントにあたる。
9 本件専任職制度及び本件新専任職制度の無効
被告が就業規則を変更して本件専任職制度及び本件新専任職制度を実施したことにより、原告らは前記のとおり大幅な減収となる不利益を被ったが、被告は、原告らないし従組の同意を得ないで就業規則を一方的に変更し、本件専任職制度及び本件新専任職制度を実施したものであり、右就業規則の変更には合理性がないから、本件専任職制度及び本件新専任職制度はいずれも無効である。
10 結論
よって、被告に対し、原告室瀬は、同原告に対する専任職への辞令の発令及び新専任職制度に基づく給与辞令の発令が無効であることの確認並びに専任職制度が実施されなかった場合の賃金との差額の支払いを、原告小川、同藤井、同徳差、同杉山、同川端は、同原告らに対する専任職への辞令の発令が無効であること及び同原告らが被告との間において別紙1(一)ないし(五)記載の賃金の支払いを受けるべき労働契約上の地位を有することの確認並びに専任職制度が実施されなかった場合の賃金との差額の支払いを、それぞれ求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1ないし3の事実(当事者、被告の定年制、本件専任職制度の提案と実施)はいずれも認める。
2 同4、6の事実(原告室瀬に対する専任職の発令、原告らに対する本件新専任職制度の実施)のうち、原告らに対する辞令の交付は認め、その余は争う。
3 同5、7、8の事実(本件新専任職制度の提案と実施、原告室瀬の定年退職、原告らの被った不利益)は認める(ただし、専任職に発令されなかった場合の賃金については標準の査定があったと仮定した場合のものである。)。
4 同9(本件専任職制度及び本件新専任職制度の無効)は争う。
三 被告の主張
1 就業規則変更による本件専任職制度及び本件新専任職制度の合理性
(一) 本件専任職制度及び本件新専任職制度実施の必要性
(1) 被告の経営課題
① 被告は、昭和五一年一〇月一日に合併により発足した銀行であるが、青和銀行は当時六三行あった地方銀行中で業績が六一位という最下位グループにあり、また弘前相互銀行は、相互銀行の特質上、高コスト体質であったことから、経営を効率化することによってコストの低減を図ることを最大の目的として合併した。
② 高コストとは、資金を集めるコストが高いということであるが、資金コストの中身を大別すると、預金の利息、経費ということになり、被告の場合、歴史的な経緯もあって小口の個人顧客の定期性預金の比率が高く、低利の要求払性預金の比率が低いため預金の利回りが高くなっていること、及び経費率(総預金量に対する経費の比率)、人件費率が極めて高いことが、高コストの原因となっている。このように、資金コストが高いことから、被告の貸出金利は高くなり(高利回り)、被告は、他行と競争する上でも非常に不利な条件を強いられていた。
被告の、昭和五六年度から昭和六二年度までの経常利益、資金調達原価、貸出金利回り、経費率(人件費率、物件費率の内訳を含む)、一人当たりの経常利益、一人当たり人件費を、東北地方及び全国の地方銀行の平均と比較すると別紙9のとおりである。これによれば、資金調達原価、貸出金利回りが群を抜いて高く、貸出金利回りは昭和六〇年度ないし昭和六二年度において全国地方銀行中一位ないし三位の高さで、高コスト・高利回りという経営体質が如実に示されている。これに対して経常利益は低く、一人当たり経常利益は全国地方銀行中の末位を低迷していることが一目瞭然であるが、収益を圧迫している要因が高い人件費であることも歴然としている。なかんずく、一人当たり人件費は、昭和六〇年以降格差が拡大する傾向にある。
③ 被告は、高コストの改善がなければ、高利回りの改善もありえず、優良顧客の拡大、適正利ザヤの確保のみならず資金運用の効率化も望めないことから、預金量の拡大、預金構成の改善による支払利息の低減化のほか、次のとおり、経費の削減を図ってきた。
経費は、物件費と人件費に分けられるが、まず物件費についてみると、物件費率は、別紙9記載のとおり昭和五六年度から昭和五九年度にかけて増大傾向を示しているが、これは、この間に行われた一八の店舗の新規開設及び第二次オンラインの構築等による経費増が圧迫している。もちろん、その間においても、他の経費の節減に努めはしたがまだ徹底していなかった。そこで、昭和六〇年度以降においては、保守管理費、機械・土地建物の賃借料の固定経費以外の経費の圧縮、特に物件費中大きな比率を占める本部経費の圧縮を徹底して行うこととした。そして、現に被告全体で、昭和六〇年度においては対前年比一億二九〇〇万円を節減し、昭和六一年度は同じく一億四四〇〇万円、昭和六二年度は同じく一億六五〇〇万円を節減した。これは可能な限度ぎりぎりの節減であり、これ以上の物件費圧縮は困難である。
したがって、なお経費の削減を図らなければならないとすれば、残されたのは人件費ということになるが、その人件費は先にも指摘したとおり、他行に比して高い水準にある。人件費率は昭和六〇年代に入って全国地方銀行中五指に入る高さであり、一人当たり人件費も昭和六一年、六二年と年代を追うにしたがい他行との格差を拡げている。他行との比較において一人当たり経常利益と一人当たり人件費のマイナス格差を合わせ見れば、被告がその体力以上の人件費の支出を余儀なくされていることは明らかであり、そのような他行との格差の要因は、五五歳以上の高年齢従業員に対する人件費支出の差にある。
すなわち、被告は、他の多くの銀行が五五歳定年制を採用していた昭和五〇年代に六〇歳定年制を採用したために、五五歳以上六〇歳までの従業員に対する高い人件費支出が一人当たり人件費を高くする原因であった。その後、昭和六一年に高年齢者等の雇用の安定等に関する法律が改正され、使用者に対し、六〇歳定年制実現への努力義務が定められたことを契機に、他の銀行においても定年を六〇歳まで延長する動きを示すに至ったが、いずれも五五歳以降の従業員に対しては、それまでと賃金体系・資格体系を異にして、五四歳時に比べ半分程度のレベルの処遇に抑えるという制度であり、満六〇歳まで一本の賃金体系と役職制度が適用されていた被告における五五歳以上の従業員の人件費とは格段の差があったため、他行が六〇歳定年制に移行した後においても、なお、被告における人件費負担との間には大きな格差が残されたままとなっていた。したがって、これに対して、被告が抜本的解決策を講じないならば、人件費支出の格差がますます拡大するであろうことは明白であった。
④ 平均寿命の伸長にともない六〇歳定年制は社会的要請であることから、被告は、これをいち早く昭和五一年発足時から実施してきたが、これによる高い人件費負担の改善が急務であるからといって社会的要請に逆らって定年制を改めることは到底なしうることでなく、被告にはその意思もない。しかし、六〇歳定年制を維持し、雇用の確保を図りながら、なおかつ人件費負担を低減する方途が残されていないわけではない。それは、六〇歳定年延長を実施した他行が軒並採用している制度、すなわち従業員が満五五歳に到達した後の処遇をその達齢前の処遇と切り離し、二本建ての処遇制度を採り入れることである。そして、五五歳到達時の処遇水準を他行の水準に比し遜色のないよう設定していくならば、人件費率をせめて他行並に合わせ同じ土俵の中で競争したいという趣旨にも合致するし、一方従来から被告の人事諸制度上の問題点として指摘されていた人件費配分の偏在化、中堅行員の昇進遅れによるモラル低下等も改善され、モラルアップと人材活性化を図りながら人件費負担の低減という所期の目的を達成することができるのである。
(2) 被告をとりまく経営環境の変化
我が国経済は、昭和三〇年代から四〇年代半ば頃まで高度成長を続け、銀行業界も我が国経済の高度成長を背景に好況を謳歌してきた。ところが、昭和四八年の第一次オイルショックを契機として我が国経済は一転して低成長時代に移行した。銀行の融資先である各企業は、業績低迷を余儀なくされたことから、高度成長期のような積極的な設備投資に背を向け、減量経営に徹して新規採用、設備投資を抑制したばかりでなく、借入金の金利負担を軽減すべく余裕資金を借入金の返済に充当するようになった。
このような各企業の資金需要の減退は、貸出金の伸び率の低下に顕著に表れている。例えば、都市銀行一三行の貸出金は、昭和四〇年代には毎年度前年比で一〇パーセント程度の伸びを示していたが、低成長時代には半減して五パーセント台の伸び率を示すにとどまったし、地方銀行においても同様の傾向がみられた。貸金需要の減退は必然的に融資金利の低下を招来するが、企業の資金調達手段が多様化して従来のように銀行にだけ頼らなくても資金を調達できるようになったことも融資金利の低落傾向を一層強めた。
他方、預金者の金利選好意欲が高まり、銀行としても高利回りの商品を開発して対応しなければならなくなったので、必然的に資金コストが増加した。その結果、銀行の本来業務の代表的な指標である預貸金利鞘をとってみても、都市銀行では昭和五二年度以降逆鞘になってしまっているし、地方銀行も利鞘が年々低下した。これに拍車をかけたのが、いわゆる金利の自由化の進展である。昭和五四年五月の譲渡性預金(CD)創設を皮切りに、昭和五六年六月の期日指定定期預金の創設、昭和六〇年三月の市場金利連動型預金(MMC)の創設、同年一〇月の大口定期預金(自由金利)等と急速に種類も増え、発行枠も拡大されていった。顧客は、当然、高利回りの預金を求めて切り替えていくから、預金全体に占める高利回りの自由金利商品の比率は年々急速に高まり(現に被告の場合、昭和六一年三月末に8.9パーセントであったものが、平成元年三月末には二六パーセント、平成二年初め頃には三七~三八パーセントという高い比率となった。)、その分経常利益を圧迫することになる。
このように、銀行の経常環境が厳しさを増していくと、当然経営の健全化が強く求められることになり、その一環として、自己資本比率の規制強化が行われた。すなわち、我が国では、昭和六〇年六月の金融制度調査会答申を受けて、昭和六一年五月に、金融機関の経営の健全性を図り、これを確保する観点から自己資本の充実を促すため自己資本比率の基準が設定されたが、その基準はまだ緩やかなものであったところ、自己資本比率規制の国際的統一を図ることが必要であるとの認識が各国の銀行監督当局の間で共通のものとなり、昭和六三年七月に国際統一基準(BIS基準)が公表され、我が国においても適用されることになったが、右BIS基準を満たすためには、内部留保の充実を一層図り、資産を増やしていく必要があった。
右のように金利の自由化が進展する一方で自己資本比率規制が強化される中で被告が縮小均衡に陥ることなく経営を維持していくためには、まず第一にコストの削減・利益の増大を通じ利益を蓄積して自己資本比率の充実を図っていく必要があった。
(3) 本件専任職制度実施の必要性
以上のとおり、金融の自由化・国際化が急激に進展し、自己資本比率規制も強化されて企業格差が一層拡大するという厳しい金融情勢のもとで、被告が縮小均衡に陥らず健全な経営を維持していくためには、高コスト・高利回りという低収益体質を改善し、収益を増大させて内部留保を高め、もって自己資本の充実を図らなければならない。高コストの改善は経費の削減なくして実現することができないが、被告は、現に物件費に関しては出来うる最大限の圧縮に努めてきたので、残る方途としては、労働条件にかかわる問題ではあるが、人件費の削減を図ることしか残されていなかった。
一方、被告は、昭和五一年一〇月発足時から六〇歳定年制を実施し、六〇歳定年時まで一本の賃金体系、役職体系が適用されていたため、年を追って中高年層への人件費配分の偏在化が顕著となり、これが他行に比して高い人件費率の格差をもたらしていた。そこで、被告においては、その後六〇歳定年制を採用した他行にならい、人事諸制度を改定して五五歳以上の高年層従業員の処遇を五四歳時までの従業員の処遇と切り離し、別の処遇体系を設定して人件費を削減する必要があった。そして、これを実施することによって、他行との格差を全く解消するまでには至らないとしても格差を縮めることができ、他方、人件費配分の偏在化を是正して従業員のモラル・アップと人材活性化を図ることにもつながることになる。
このように、被告においては、社会的にも相当と認められる内容の改定を行うことによって人件費の削減を図ることが、被告が生き延びて行くために不可欠であり急務であったのであり、そのために本件専任職制度を実施する必要があった。
(4) 本件新専任職制度実施の必要性
被告が昭和六一年五月に導入した本件専任職制度は、これを他行が採用している制度と比較すると、共通の点は、満五五歳に到達すると役職体系から外れ、新設の専任職体系に移って所属長が指示する特定の業務または専門的業務に従事するものとされている点のみであり、基本給(本給・業績給)の額は満五五歳到達時で凍結されそれ以降昇給しないけれども減額されないという点と役職体系から外れることに伴い役職手当を解かれるが新設の専任職手当が支給される点は他行とは全く異なっている。
そのため、他行の場合には五五歳に到達すると概ね五四歳時の年収の五〇パーセント未満に切り下げられているのに対し、被告の専任職制度では五四歳時の年収の一一パーセント程度が低減するにすぎないものであった。したがって、本件専任職制度実施による専任職移行該当者は昭和六二年四月末現在で一一七名であるが、三年後には二五〇名になることが見込まれており、この制度のままでは三年後の専任職移行該当者への人件費は一八~二〇億円という巨額に上ることが確実であった。これが現実のものになると、人件費削減効果が不十分なため五四歳までの従業員の賃金をレベルアップすることが困難になるし、同時に、自己完結的、専門的業務に従事するという位置付けの専任職行員がかくも高水準の年収を得ていることは中核である中堅層や責任ある支店長の年収と対比して著しくバランスを失しており、このような配分のアンバランスは、企業の発展と活性化の中核を担う中堅層行員のモラル低下というゆゆしき事態にも立ち至りかねない。したがって、早急に制度を見直す必要があった。そこで、被告は、本件専任職制度を見直し、本件新専任職制度を実施した。
(二) 専任職制度導入とその内容の相当性
(1) 被告の専任職行員の賃金水準
他の銀行の五五歳以上の行員の賃金水準は、概ね五四歳時の年収の五〇パーセント未満に切り下げられている。これに対し、本件専任職制度の実施による被告の専任職行員の賃金水準は、五四歳時の年収の約一一パーセント減にとどまる。そして、本件新専任職制度実施後の被告の専任職行員の賃金水準も十分社会的妥当性を有するものであることは、次のような他行との比較、あるいは青森県における賃金水準や生計費水準との比較によっても明らかである。
① 東北の地方銀行との年収比較
昭和六二年九月現在でとらえた被告と青森銀行、岩手銀行、東北銀行の五四歳時、及び五五歳到達時以降の各年収水準(ただし、被告の場合は本件新専任職制度実施後五年の移行措置を完了した完全実施後の水準を示す。)を比較すると、支店長クラスの賃金は、被告が四九八万六〇〇〇円、青森銀行が四一九万三〇〇〇円、岩手銀行が三七九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円、次課長クラスは、被告が四八五万四〇〇〇円、青森銀行が三七二万八〇〇〇円、岩手銀行が三四九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円、事務職クラスは、被告が四〇五万七〇〇〇円、青森銀行が三二九万三〇〇〇円、岩手銀行が三一九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円であった。したがって、被告における五五歳到達時以降の年収水準は、各階層とも他の三行より約一〇〇万円程度高く設定されていた。
② 地場企業との賃金比較
青森県経営者協会が青森県「毎月勤労統計調査地方調査結果表」をとりまとめて発表した「賃金関係資料」によれば、青森県内全産業における昭和六一年の平均現金給与総額は、月額で二四万五三九〇円、年額では二九四万四六八〇円であり、被告における専任職の年収水準(完全実施後)はこれを一〇〇万円ないし二〇〇万円上回る。右の全産業平均額は、年齢・階層を問わないものであるから、右のような単純な数値の比較は正確さを欠く点があるかもしれないが、青森県における六〇歳定年制の実施率が昭和六一年現在でまだ31.2パーセントであることからすれば、右の平均額は五五歳までの年齢層が主体となっていると解しても大きな誤りはなく、一方、高年齢者の求人状況は依然として厳しいものがあり、「青森県における年齢別常用職業紹介状況及び中途採用時情報(速報値)」によれば、平成元年四月ないし六月時における五五歳ないし五九歳(男子)の中途採用時賃金は、月額一七万四〇〇〇円であり、前記全産業平均額よりもかなり低い水準であることに照せば、被告における専任職の賃金水準が地場企業の同年齢層の賃金水準より格段に優れたものであることは明白である。
③ 青森県における生計費支出水準
青森県人事委員会の発表によれば、昭和六二年四月時点で青森市における世帯人員別標準生計費は、三人世帯で月額二〇万一六七〇円(年額二四二万〇〇四〇円)、四人世帯で月額二三万二五三〇円(年額二七九万〇三六〇円)であり、他方、大蔵省東北財務局青森財務事務所発表の「青森県主要経済指標」によれば、青森市における家計費支出は昭和六一年一月から同年一二月までの一年間で三五五万八九三四円である。
(2) 被告行員の公平な処遇
前記のとおり、賃金水準という観点からみても、被告における専任職は地場産業はもとより東北の地方銀行と比較しても格段に優れたものであるが、これまで再三指摘したように、専任職行員の処遇は組織上業務遂行上の位置付けと密接に関連しているのであって、単に賃金のみを切り下げたというものではない。専任職制度の内容の合理性・相当性を考える場合、この点をないがしろにしてはならない。
すなわち、これまでにも再三明らかにしてきたとおり、被告における中高年層の肥大化傾向は益々増大し、その結果として招く人事の停滞、人件費配分の偏在化は行員のモラル低下につながり、このままでは厳しい経営環境下、人材活性化による被告の発展は到底望むべくもない。したがって、行員の一人一人が自己の能力をフルに発揮し、それを公正に評価・処遇する風土が形成されることが被告にとって緊急事である。よって、被告は「金融環境・行員の職業意識の変化、法改正という時代的要請と人件費の偏在化という当行の個別的課題の解決を図る中で、銀行が期待する人材をキャリア面・能力面から、最大限発揮しうる制度を構築する」ため、現行一般職行員を幾つかのコースに分け、コース別に能力開発、異動配置、公平な処遇を推進しようとする「コース別人事管理制度」(新人事制度)を導入することとした。
本件専任職制度はこれより先昭和六一年五月に発足しており、行員は満五五歳に到達すると役職体系から外れて職位を後進に譲り、自らは専門的、自己完結的業務に従事するものとされていたが、本件新専任職制度のもとでは、専任職は「永年にわたる銀行員生活で体得した知識、経験を所属長が指示する特定の業務または専門的業務に従事する職階」であり、その主要職務内容は「特殊債権の管理、特定先の渉外活動、特定の集中業務、業務推進役」とされており、その位置付けがより明確にされた。
能力・働きに応じた公平な処遇という観点から、専任職の賃金も右のような専任職層の位置付けにふさわしいものとする必要があるが、その見直しに当たっては、「本給」は生活保障的要素の賃金部分であるから減額すべきではないが、「業績給」には五四歳までの各人の能力発揮の歴史が組み込まれているのでこの事実をある程度尊重すべきであるとの考え方にたち、専任職の賃金を一律とはせず「業績給」の五〇パーセント減額という形で「業績給」の個人別格差を拡大した。これは前述した専任職の位置付け・役割にも合致する合理的な内容といいうるものである。
(3) 専任職制度を実施するにあたっての移行措置及び補完策
被告は、専任職制度の実施に伴い五五歳以降の賃金が下がることを考慮して、これを補完する様々な制度もあわせ行った。これを本件新専任職制度についてあげれば次のとおりである。
① 移行措置
業績給の五〇パーセント減額、専任職手当の廃止並びに賞与支給率の改定については、これを一挙に実施すると該当者に与える影響が大きいので、いずれも段階的に実施して五か年で完全実施する。
② 各種の補完策
イ 選択定年加算金制度の充実
昭和六一年五月専任職制度実施の際再制定された選択定年加算金制度(早期退職者に対し規定退職金以外に加算金を支給する制度)を改定した。すなわち、加算金制度は基本給×支給乗数により算出されるが、その支給乗数を年齢層別に一〇ないし五引き上げ、充実をはかった。
ロ 専任職対象の特別融資制度の新設
専任職行員の冠婚葬祭に係わる出費に対し、その援助を目的として特別金利によるローンを新設したもので、その主な内容は融資額が三〇〇万円以内、利率が年四パーセント、期間が最長五年(満六〇歳の日まで)等である。
ハ 行員住宅融資制度の返済方法緩和
返済の猶予方法を改定し、「審査の上、満五五歳に達した者は融資残高について元金の返済を定年退職時に一括返済する」こともできるように改めた。
ニ 専任職の賃金減額にともなって年金の支給水準が低下するため、その補完を目的として企業年金を拡充した。すなわち、年金の支給月額を五〇〇〇円増額して六五〇〇円とした。
(4) 十分な労使交渉及び組合員への説明
被告が専任職制度・新専任職制度を実施するにあたって、みちのく銀行労働組合(労組)及びみちのく銀行従業員組合(従組)と労使協議会あるいは団体交渉を通じて労使交渉を重ねた経緯は、以下のとおりである。
① 本件専任職制度実施の経緯
被告は、昭和五二年九月に人事制度研究会を、昭和五七年二月に労組と共同で中高年対策労使専門委員会を、昭和五八年六月に労組と共同で経営体質改善委員会をそれぞれ設置し、たび重なる委員会の検討・答申において、高コスト、高利回りという競争力劣弱な基本的体質の早期改善の必要を強く指摘されてきたが、その改善ができないまま昭和五九年度上期の中間決算において総資金利鞘がマイナスになるという憂慮すべき状況に立ち至ったので、被告は、昭和六〇年三月二三日に労組へ、同年四月三日に従組へ、それぞれ「高齢化に伴う人件費配分偏在化是正と体質強化のための人事施策」について被告の考え方を提示し、両組合の協力を求めた。右提示には、六〇歳定年という構造的問題があるので、人員の削減、選択定年制度の存続等を検討する他、抜本的な対応として、中高年従業員への賃金配分偏在を是正するため五五歳到達時以降の賃金水準は五四歳時年収の四〇パーセントを目処とし五か年で移行する、管理職定年制の導入その他人事諸制度の改定を図るという内容が含まれていた。
被告の右提案に対し、従組は反対を唱えるのみで何ら真剣に取り組む姿勢を示そうとしなかったが、労組は、(イ)月例定例給与は五五歳以降凍結する、(ロ)役職制度の厳正運用、(ハ)世代交代による活性化を目的とした管理職定年制の導入、(ニ)年間賃金の削減幅は二〇パーセントないし三〇パーセントを限度とする等の提案を被告に示した。
そこで、被告は、労組の右提案を検討した上、昭和六一年一月三〇日、労組に対し、(イ)満五五歳以上の基本給を凍結する、(ロ)満五五歳に到達した管理職階者は原則として翌月一日以降役職を変更し、別途新設する専任職とし従前の役職から外れる、(ハ)専任職の賃金は直前役職時の基本給に諸手当(直前の管理職手当、役職手当を除き専任職手当を加える)を加えたものとする、(ニ)措置後の年間賃金水準については、直前役職位により差異はあるが、概ね直前役職の年間賃金の八〇パーセントないし九〇パーセント程度、(ホ)実施時期は昭和六一年四月一日とする内容の提案を示し、従組に対しても同年二月三日に右と同様の提案を示した。
被告の右提案に対し、従組は、五五歳以上の者に対する労働条件の切り下げであり了承できないとして、被告と協議を進める姿勢を全く示さなかったのに対し、労組は、被告に対し、具体案の提示を求めてきたため、被告は、右のような両組合の動きをにらみながら具体案作りの作業を進めた上、労組に対しは同年三月三一日に、従組に対しては同年四月三日に、それぞれ「体質強化のための人事諸施策(具体案)」を交付し、本件専任職制度と同内容の提案をした。
被告の右提案に対し、労組はこれを受諾したので、被告と労組との間に、同年四月二八日付けをもって「体質強化のための人事諸施策」の実施について合意が成立した。これに対し、従組は、同月一六日に団体交渉の場において賃金の凍結、専任職への移行は労働条件の切り下げであり一切容認できないとする姿勢を示し続けた。
以上の経緯により、従組は被告の提案に対する具体的交渉は勿論その検討すらもまったく行おうとせず、結局被告と従組との間では合意に至らなかったのであるが、被告は、圧倒的多数の組合員を要する労組の同意を得、またアンケートを通じて管理職の意向も確認でき、一方、被告の経営環境は一刻も遷延を許さない厳しい状況にあったので、昭和六一年五月一日付けをもって本件専任職制度を実施した。
② 本件新専任職制度実施の経緯
被告は、労組及び従組に対し、昭和六二年度賃金引き上げに関し昭和六二年五月二八日付けで行った回答において、「現行賃金体系にみられる賃金配分の偏在化等を是正し、中堅層への処遇改善と経営体質強化を図るため、五五歳以降の賃金水準のあり方を含む新賃金体系を再構築し来年度から実施すること」を付帯条件として提示した。これに対し、労組は、新賃金体系の再構築のための検討のテーブルにつくことを応諾したが、従組は、被告の回答が具体的でないので付帯条件とは受け止められない、また労働条件の改悪につながる改定は認められないとして、これに取り組もうとする姿勢を見せなかった。
被告は、昭和六二年九月七日、労組及び従組に対し、「新人事制度の概要」を提案した。右提案では、専任職制度については、(イ)満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は翌月一日をもって原則として全員専任職体系へ移行する、(ロ)専任職発令とともに各人の「業績給」を一律五〇パーセント減額し、また現行の専任職手当を廃止するが、実施後五年間の経過期間を置き漸減の措置をとる、(ハ)賞与支給率を改定する、(ニ)専任職の職務については、五四歳までの職務経験・保有能力を勘案し、自己完結型の特定業務または専門的業務に従事させ、移行以前と全く同じ責任の仕事は与えないものとする等と改定し、これを昭和六三年四月一日から実施するという内容となっていた。
被告は、昭和六二年一二月一八日、労組に対し、労組からの事前の質問に回答する形で「質問事項に対する回答」と「新専任職制度についての追加提案」を示した。右追加提案では、業績給の五〇パーセント減額と専任職手当の廃止についての移行措置が具体的に提案されていた。さらに、被告は、労組からのその後の諸要望を考慮して、昭和六三年二月一二日、労組及び従組に対し、右提案を一部修正し、(イ)選択定年加算金制度については、改定内容は先の提案どおりとするが、移行措置として同年四月一日から昭和六四年三月三一日までの間に退職する五五歳以上の者については現行制度を適用する、(ロ)専任職の賞与は全役職一律四〇〇パーセント(年間)とする、なお、個人メリットについては当初提案どおりとする、との修正提案を行った。
被告と労組は、昭和六三年三月二三日付けで本件新専任職制度導入に関し被告提案の内容による協定を締結したが、従組との間では、従組が被告の提案に対し全面反対という従来からの姿勢を変えなかったため、協議を行うことができなかった。
以上のとおり、従組とはついに合意を得ることはできなかったが、労組とは十分な組織討議を踏まえた上での折衝を重ね、かつ、その要望・意見を取り入れ合意に達したので、被告は労組との協定に従い、昭和六三年四月一日、本件新専任職制度を実施した。
③ まとめ
このように、本件専任職制度及び本件新専任職制度は、全体として十分な労使交渉を行った上実施したものであると評価しうるものである。非組合員に対しても、被告は詳細な説明を行いその納得を得た。例えば、本件新専任職制度に関しては、昭和六二年九月二四日から二六日にかけて、さらに昭和六三年一月一一日から同月二〇日にかけて説明を行った。したがって、本件専任職制度及び本件新専任職制度は、被告の全行員に対し十分な説明・交渉の機会を経た上実施されたものである。
(5) 専任職発令後の原告らの職務内容
専任職制度の実施により、管理職者は、専任職発令に伴い管理職を解かれるから当然に担当職務内容が変わるが、非管理職者の場合は、満五四歳時の担当職務内容の如何によっては担当職務が変わらないということもある。例えば、小規模店で出納業務を担当していて満五五歳に達し専任職の発令を受けた場合、もともとの担当業務が質・量ともに軽微で、これ以上軽減のしようもないから、専任職発令後も引き続き出納業務を担当することになる。
被告では、専任職の発令をするに当たって、必ず部店長が、当該本人と面接し、専任職の位置付けを説明して理解を求めるとともに、専任職移行後の職務について当人の希望を聴取するようにしてきた。このようにして発令された専任職の担当業務をみると、職務が変わった例、職務は変わらないがその具体的担当内容が変わった例(例えば、「渉外」という職務は同じだが、通常の渉外業務全般の担当から集金専担となるなど。)、職務も具体的担当業務も変わらない例(前記の小規模店の出納等)、さらに在籍のまま関連会社やその他の会社へ出向する例、等さまざまであるが、原則として自己完結型の業務(業務の内容が定型的で軽易な質であり、その仕事の責任が自己完結できるもので、部下の管理監督を伴わない業務)を担当させている。
そして、原告らに対する専任職発令後の職務内容は、次のとおりであり、原告らは、専任職発令後は、いずれも自己完結的で軽易な業務を担当している。
① 原告室瀬について
原告室瀬は、専任職発令前は本町支店において出納兼テラーを担当していたが、専任職発令に伴いテラー担当となり、その後、同人の希望により出納の担当、さらに集金業務の専担となり、その後定年退職した。
② 原告小川について
原告小川は、専任職発令前は本町支店において営業課長の職にあったが、専任職発令後は、1ヶ月間同支店において検印代行を行い、平成元年四月一日付けで石江支店に転勤し、同支店において、融資業務を担当し、その後、出納業務を担当した後、再度融資業務を担当している。
③ 原告藤井について
原告藤井は、専任職発令前は大畑支店において出納専任の担当であり、これは経験の浅い女子行員でも勤まる業務でこれ以上軽減する余地がないので、専任職発令後も引き続き出納専任の担当をしている。
④ 原告徳差について
原告徳差は、専任職発令前は浅虫支店において渉外課長の職にあったが、専任職発令後は渉外課長の職を解かれ、同支店において渉外業務を担当(渉外担当調査役)した後、平成三年四月一日付けで大鰐支店に転勤となり、同支店でも渉外業務を担当している。
⑤ 原告杉山について
原告杉山は、専任職発令前は中里支店において融資課の代理として融資受付、融資実行処理と一部検印業務の代行を担当していたが、専任職発令後は検印代行がなくなり、同支店において融資受付、融資実行処理業務のみを担当している。
⑥ 原告川端について
原告川端は、専任職発令前は平賀支店において営業課の調査役として出納と一部検印業務の代行を担当していたが、専任職発令後は同人の希望もあり、検印代行業務は外されたが同支店において引き続き出納を担当している。
(三) 結論
以上に述べたとおり、被告が他行との競争に伍していくためには、他行に遅れをとっている部分を除去し、条件を他行と同等程度に整備することが必須であった。被告が、様々な検討を経て、他行における処遇にならい、五五歳到達を区切りとする専任職制度を導入することにした所以もそこにある。
他行のように、定年を五五歳から六〇歳に延長するのに伴い五五歳到達時で賃金体系等処遇の基準を切り換えることについては、定年延長に伴う問題として、人件費の増大、人事の停滞及び企業活力の低下等が指摘され、これらに対応するには従来の年功序列型の賃金体系や人事管理を見直す必要があり、定年延長を円滑に進めるために、従前の定年である五五歳までの給与体系を当面は動かさず、定年後在職となる五五歳以降の給与についてのみ特別の措置をとることとしたことも首肯できるとの判例(東京高裁平成四年八月二八日判決「第四銀行定年制事件」)もあり、このような考え方はほぼ定着しているといってよい。もっとも、定年延長された期間の雇用関係は新たに創設されるものであるから、その労働条件について不利益変更という法律問題は生じないのに対して、被告の専任職制度は、従前から六〇歳定年制が実施されている中で、五五歳という一定の年齢に達した以降の処遇を一変させるものであるから、右の定年延長の場合とは根底において大きな隔たりがあるとの意見もあろう。しかしながら、同じ業種において同一の六〇歳定年制を実施する場合、定年を延長するのと同時であるならば、五五歳以降の賃金体系・資格体系に特別の措置を設けることに合理性が認められるのに、既に六〇歳定年制を実施しているときには、右と同じ取り扱いであっても、その合理性が認められないということは論理が一貫しないというべきである。したがって、それが、既得の労働条件を不利益に変更するものであったとしても、それだけの強い必要性があり、しかも、その実施に際して移行措置、代償措置等労働者の混乱を緩和する配慮を講じているならば、定年を延長するのと同時に五五歳以降の賃金体系・資格体系に特別の措置を設けた場合と同様にその妥当性を認めるべきである。
そうすると、被告における本件専任職制度及び本件新専任職制度の実施は、金融業界の厳しい経営環境のもとで企業の存続を図るために必要不可欠な対応であったのであり、その内容においても、地場産業はもとより同規模の他行に比して格段に優れたものであって、その補完策や実施に至るまでの経緯等を含めてこれを総合的に勘案すれば、就業規則を変更し、本件専任職制度及び本件新専任職制度を実施したことには合理性が認められ、原告らがこれに同意しないことを理由としてその適用を拒否し得ないものであることは明白である。
2 専任職発令に対する原告らの承認
(一) 原告室瀬について
原告室瀬に対する専任職発令の前々日である昭和六二年一〇月三〇日に、被告の若松人事部長と同原告の上司である本町支店の田中支店長が同原告と面談して、専任職制度の趣旨、専任職発令後の同原告の職務内容等を説明し、同原告の意向を聴いたところ、同原告は、従業員組合と自分個人の考えは違う、支店長の立場もよく分かるので専任職の辞令はそのまま受理したいと述べ、同年一一月二日本町支店の全体朝礼の場で、田中支店長が同原告に専任職とする旨の辞令を交付すると、同原告はそのまま何らの異議なく辞令を受領した。その後、同原告は、同月四日午後六時ころに田中支店長に対し、従業員組合から辞令を返却するよう指示を受けたので返したいと辞令の返却を申し出た。また、同原告は、同月二〇日に初めて専任職としての給料が口座振込の方法により支払われたとき、同日の朝給与支給明細書を配付されたにもかかわらず何も異議を述べず、しかも直ちに振込額の一部を引き出しており、異議通告を提出してきたのは当日の午後五時ころであった。さらに、被告は、毎年一一月一日現在で自己申告書というものを提出させているところ、同月二八日までに提出された同月一日現在の自己申告書も専任職用の用紙を交付されたのに、同原告は、何ら異議を述べることなく、そのまま記入して提出している。
右の経過を総合すれば、原告室瀬は、同年一日付けの専任職発令を同原告の自由な意思に基づいて承認していたことが明らかであるから、今に至って専任職発令の無効を主張することは許されない。
(二) 原告小川について
原告小川が所属する支店の支店長は、平成元年二月一日に同原告と面談し、専任職制度の趣旨、専任職発令後の同原告の職務内容等を説明し、同原告の意向を聴いたところ、同原告は、「従業員組合の組織決定には従わなければならないが、専任職発令の辞令は受領する。専任職移行後の職務については支店長の指示に従う」旨述べ、同原告に対しては同月二八日の課長会で辞令交付がされ、同原告はこれを受領した。また、同原告は、同年三月二〇日に初めて専任職としての給料が口座振込の方法により支払われたが、当日の朝給与支給明細書を交付された際、これに対し何も異議を述べないで、直ちに振込額の一部を引き出している。さらに、平成元年一一月二八日までに提出された前記の同月一日現在の自己申告書も専任職用の用紙を交付されたのに、同原告は、何ら異議を述べることなく、そのまま記入して提出している。
右の経過を総合すれば、原告小川は、同年二月二八日付けの専任職発令を同原告の自由な意思に基づいて承認していたことが明らかであるから、今に至って専任職発令の無効を主張することは許されない。
(三) 原告藤井について
原告藤井が所属する支店の支店長は、平成元年四月二八日に同原告と面談し、専任職制度の趣旨、専任職発令後の同原告の職務内容等を説明し、同原告の意向を聴いたところ、同原告は、「従業員組合の組織決定には従わなければならないが、専任職発令の辞令は受領する。専任職移行後の職務については支店長の指示に従う」旨述べ、同原告に対しては同年五月八日の朝礼で辞令交付がなされ、同原告はこれを受領した。また、同原告は、同月一九日に初めて専任職としての給料が口座振込の方法により支払われたが、当日の朝給与支給明細書を交付された際、これに対し何も異議を述べないで、直ちに振込額の一部を引き出している。さらに、平成元年一一月二八日までに提出された前記の同月一日現在の自己申告書も専任職用の用紙を交付されたのに、同原告は、何ら異議を述べることなく、そのまま記入して提出している。
右の経過を総合すれば、原告藤井は、同年二月二八日付けの専任職発令を同原告の自由な意思に基づいて承認していたことが明らかであるから、今に至って専任職発令の無効を主張することは許されない。
四 被告の主張に対する認否及び反論
1 被告の主張1(一)(専任職制度実施の必要性)の(1)ないし(3)の事実(被告の経営課題、被告をとりまく環境の変化、本件専任職制度実施の必要性、本件新専任職制度実施の必要性)は争う。
被告が主張する専任職制度実施の必要性は、一言で言うならば金融の自由化・国際化等を背景とする金融情勢の厳しさの中での経営改善の必要性に過ぎず、金融界における一般的な問題性の域を出ていない。被告の経営状態は、本件専任職制度及び本件新専任職制度導入当時、倒産の危機に直面していたというような状況ではなく、むしろ、被告は、昭和六二年一二月に東京証券取引所の第二部に上場を行ったばかりか、平成元年には同取引所の第一部に上場するまでに至っており、社会的には銀行・企業としての地位を確実に高めているのであって、本件専任職制度及び本件新専任職制度を実施して、五五歳以上の行員に対しその賃金を削減する不利益を甘受させなければならないような必要性は存在しない。
2 同(二)(専任職制度導入とその内容の相当性)の(1)、(2)の事実(被告の専任職行員の賃金水準、被告行員の公平な処遇)は争う。
被告の主張は、専任職制度類似の制度を導入している他の銀行が従前五五歳定年制であったものを六〇歳定年制に改訂するにあたって採用した制度であるとの前提を無視した議論であり、六〇歳定年制を実施してきた被告が、従業員の労働条件を切り下げてまで採用しうる合理的な内容をもった制度ではない。五五歳の前後で労働者の提供しうる労働力に質的・量的な変化が生じることはないにもかかわらず、被告が何の根拠もなく被告の一方的な理由から五五歳で線引きをし、職務内容を変更しておきながら、「能力・働きに応じた公平な処遇と賃金」だとして、専任職の賃金を五四歳時に比較して大幅に切り下げることは許されない。なお、被告以外の他の銀行が五五歳で線引きをしたのは、従来の定年が五五歳で職務体系も五五歳までで完結していたことから、定年を六〇歳に延長したことに伴い、新たに五五歳以上の従業員の処遇方法と職務体系を付け足したものであり、これを既に六〇歳定年制を採用し六〇歳までの職務体系を完備していた被告が採用することはできないものである。また、現実の業務にあっては、専任職になっても五四歳時の職務内容と実質的には異ならない仕事をしている例も多いのであって、職務内容については専任職制度の形式と実質とは乖離しているのであり、これは専任職制度が机上の制度にすぎないことを示している。
被告は、東北地方の他の地方銀行との比較をしているが、そもそも五五歳定年が六〇歳に延長された銀行と従前から六〇歳定年制を採用してきた被告とを比較すること自体に問題があるとともに、各銀行固有のその他の要素も考慮せずに、五五歳以上の賃金が他行より高いことだけをもって、賃金の大幅引き下げを合理化することはできない。また、被告は地場企業との比較も行っているが、被告は青森県では青森銀行とともに企業としてトップグループの地位を保持し、東京証券取引所の第一部にも上場している企業であるから、地場企業よりも年収水準が高いことをもって賃金減額の社会的妥当性を論ずることには疑問があり、また、青森県の賃金水準は、全国の最下層の位置にあるのであり、そのような低い賃金水準と比較すること自体、社会的妥当性の議論にはなじまないものである。
3 同(3)の事実(専任職制度を実施するにあたっての移行措置及び補完策)のうち、被告がその主張する移行措置・補完策を採用したことは認めるが、右の移行措置及び補完策が就業規則の一方的不利益変更を合理的ならしめるものであることについては争う。
移行措置については、本件新専任職制度の導入から五年後の平成四年四月一日以降に専任職への発令を受ける者は発令月の定例給与から約四〇パーセントという極端な減額を受けるから、移行措置では専任職行員が被る不利益を緩和することにはならない。
選択定年加算金制度は、もともと、専任職制度とは全く関係なく、専任職制度導入以前から存在した制度である。被告は、支給乗率を引き上げたことを理由に補完策であると主張するが、支給乗率は、一定ではなく、専任職行員の給与の減額が大きくなった現在では、その支給乗率は以前より引き下げられており、補完策としての意味はなくなった。
専任職対象の特別融資制度については、賃金の切り下げを受けなければそもそも融資を受ける必要はなく、融資を受ければ利息の支払いをしなければならないのであって、賃金の切り下げの補完策にはなっていない。
行員住宅融資制度の返済方法の緩和については、元金の返済を定年対象時に一括返済することにすると、元金の額が減少しないまま定年退職時まで利息を支払うことになるので、一括返済方法を取らない場合に比し、支払う利息の額が増加するのであって、むしろ従業員の不利益になる。
企業年金制度を充実したとの主張については、支給を受ける年金額が増額するため、一見すると補完策になっているかのごとき印象を受けるが、そのために企業年金の掛け金も増額し、従業員もその増加分の一部を負担させられている。そもそも、専任職制度実施に伴って、厚生年金の受給額が減ることに起因しているので、むしろ不利益は拡大している。
4 同(4)の事実(十分な労使交渉及び組合員への説明)のうち、従組が被告の提案をすべて受け入れなかったことは認め、その余の事実は知らない。
被告が主張する人事制度研究会、中高年対策労使専門委員会、経営体質改善委員会等各種委員会は、被告と労組との間で設立された委員会に過ぎず、従組はなんら関与しておらず、関与の機会すら与えられず、右各種委員会でどのような検討がなされ、どのような内容の答申がされたかについては、従組にはほとんど知らされていなかった。このように、加入組合員が少ないとはいえ、独立した労働組合として被告と対等の法的地位を有し、労組と平等な扱いを受けるべき権利を有する従組を排除して行われた委員会での検討内容・答申は、被告における全銀行的な合意であったとは到底言えない。
そして、被告は、従組が本件専任職制度及び本件新専任職制度実施に関して一方的に協議を拒否したかの如き主張をするが、被告の本件専任職制度及び本件新専任職制度実施に関する団体交渉に臨む姿勢は、従組に対して最初の提案を行った昭和六〇年四月二日の団体交渉以来一貫して、被告の提案を従組に説明し、納得してもらうというだけのものであり、従組との交渉で従組の提案を受け入れようとの姿勢は微塵もなかったものである。
5(一) 同(5)(専任職発令後の原告らの職務内容)の冒頭の事実のうち、専任職の担当業務が、専任職発令により、職務が変わった例、職務は変わらないがその具体的担当内容が変わった例、職務も具体的担当業務も変わらない例、在籍のまま関連会社やその他の会社へ出向する例等さまざまであることは認め、その余の事実は、否認ないし争う。被告が主張する自己完結型の業務は実際の労働現場では存在しないものであり、原告らの業務が専任職発令前に比べ軽易な業務になったとはいえない。
(二) 同(5)①の事実(原告室瀬の職務内容)のうち、原告室瀬が、専任職発令前は本町支店において出納兼テラーを担当し、専任職発令に伴いテラー担当となり、その後定年退職したことは認め、その余の事実は否認する。テラー担当後は、出納兼テラーに戻り、その後渉外係に配置換えとなり、集金を中心に仕事をしていたが、融資業務に関する仕事も付随して行っていたのであり、被告が主張するような集金業務の専担というような仕事ではなかった。
(三) 同②の事実(原告小川の職務内容)のうち、原告小川が、専任職発令前は本町支店において営業課長の職にあったこと、専任職発令後一ヶ月間は同支店において検印代行を行っていたこと、四月一日付けで石江支店に転勤となり、同支店で融資業務を担当していたことは認める。石江支店での融資の仕事は、融資全般であり、専任職でない融資係と異なる点はなく、融資の仕事をかなりの期間担当していなかったことや以前に融資の仕事を担当していた時とはシステムも大幅に変化していたこともあり、大変な負担であった。
(四) 同③の事実(原告藤井の職務内容)のうち、原告藤井が、専任職発令前及び発令後を通じ、大畑支店において出納専任の担当であることは認め、その余は否認する。同原告の仕事は新入行員で出来るような軽微な仕事ではない。
(五) 同④の事実(原告徳差の職務内容)は認めるが、浅虫支店及び大鰐支店の渉外業務は、いずれも通常の渉外業務と何ら変わるところはなかった。
(六) 同⑤の事実(原告杉山の職務内容)は認めるが、年度初めやキャンペーン時期には、専任職発令前と変わることなく、業務目標の遂行割当もされているし、専任職発令後の平成三年四月からは融資課長が新任であったため、融資を一年間担当したことから、仕事の内容・処理量が増え、事務範囲も拡大し、責任も重くなった。
(七) 同⑥の事実(原告川端の職務内容)のうち、原告川端が平賀支店において専任職発令前も専任職発令後も出納を担当していたことは認める。
6 同1(三)(結論)は争う。
7 同2(一)の事実(専任職発令に対する原告室瀬の承認)のうち、原告室瀬が昭和六二年一一月二〇日に口座振込の方法により支払われた給料の一部を直ちに引き出したこと、異議通告を提出したのが当日の午後五時ころであったこと、同月二八日までに提出された同月一日現在の自己申告書につき専任職用の用紙を交付されたのに対して何ら異議を述べることなく、そのまま専任職用の自己申告書に記入して提出していたことは認め、その余の事実は否認する。
原告室瀬は、専任職発令の前々日の夕方、被告の若松人事部長の訪問を受けた際に、専任職制度導入の経過等からして同原告自身は専任職制度には反対であり、所属する従組も反対していることでもあるので、専任職発令の辞令は受けられない旨を若松人事部長に告げた。なお、その場には田中支店長は同席していなかった。
同原告は、昭和六二年一一月二日に田中支店長から支店の全体朝礼の場で専任職発令の辞令の交付を受けたが、朝礼は開店直前の慌ただしい状況の中で行われるものであり、その場で辞令を返却するとか返却は受け付けないというようなやり取りを支店長としていては業務に支障を来す可能性があったことや、人事部長には専任職制度に反対であり、辞令は受け取れない旨の自己の意思を伝えていたことから、仕事の手が空いた時に返却しようとの考えで朝礼の場では辞令を返却しなかったのである。同日、残業時間中にはなかなか手が空かなかったことから、就業時間終了後に辞令を返却しようと田中支店長を捜したがすでに退行したようで見付けることができず、同日中には返却できなかったのである。同月三日は休日であったことから、返却は四日になってしまったが、返却に際しては自己の意思に基づくものであることを明らかにしている。
8 同(二)の事実(専任職発令に対する原告小川の承認)のうち、平成元年二月二八日に原告小川に対し専任職の辞令が交付されたことは認め、その余の事実は否認ないし不知。
原告小川は、同年二月初めに当時勤務していた本町支店の小島支店長から営業室の同原告の席で、同年三月一日から専任職に発令されるので、営業課長の職務の引き継ぎの準備をしておくようにとの話があった。同原告は専任職制度には反対であること、従組も反対であり、同じ支店の室瀬が訴訟をしていることも話し、専任職に発令されることには納得できない旨を支店長に伝えた。そして、同原告は、同年二月二八日に専任職への辞令の交付を受けたが、専任職制度には反対であるので辞令を返却したいと支店長に伝えたところ、支店長は、辞令を返却するのであれば直接人事部の方へ返却するようにと話したので、同原告は、専任職制度はその導入の経過及び賃金を大幅に減額するものであり、容認できない内容であることを理由に、その旨の文書を付して、直ちに被告に直接返却した。
9 同(三)の事実(専任職発令に対する原告藤井の承認)のうち、平成元年五月八日に原告藤井に対し被告から専門職への辞令が交付されたことは認め、その余の事実は否認ないし不知。
原告藤井に対し専任職への辞令が交付されたのは同日の朝礼終了後であり、支店長は、支店長室で同原告に対し専任職への辞令を出したのに対し、同原告は、「専任職制度については私は反対であり、同意していませんし、私の所属する従業員組合も同意していません。また、現在この問題で裁判も行われており、この辞令は受け取るわけにはいきません。この辞令は支店長から返すのが筋だと思いますので、どうぞ支店長から返してください。」と伝えた。支店長は、「私も専任職で給料が減らされており、あなたの気持ちは十分わかりますが、私の支店長としての立場もあるので、返すのであれば、あなたの方から返してもらいたい。」と言った。同原告は、支店長の立場を考慮し一旦辞令を預かったが、辞令を受け取る意思のないことを再度表明し、専任職制度については同意していないので、受け取れない旨の文書を付して、当日被告に返却した。
第三 証拠<省略>
理由
第一原告室瀬の、被告が同原告に対してした専任職への辞令の発令及び新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効確認を求める訴え、及び原告小川、同藤井、同徳差、同杉山、同川端の、同原告らが被告との間において別紙1(一)ないし(五)記載の各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を求める訴えについて
一確認の訴えは、特に確認の利益がある場合に限って許されるところ、確認の利益は、判決をもって、法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められるものである。
二1 そこで、原告らについて、確認の利益が認められるかについて判断するに、請求原因1ないし3の事実(当事者、被告の定年制、本件専任職制度の提案と実施)、同4、6の事実(原告室瀬に対する専任職の発令、原告らに対する本件新専任職制度の実施)のうち、被告が原告らに対し辞令を交付したこと、同5、7、8の事実(本件専任職制度の改正提案と実施、原告室瀬の定年退職、原告らの被った不利益)は、いずれも当事者間に争いがない。
そして、原告らは、専任職発令前、いずれも主任以上の役職に就き、被告から役職手当の各支給(原告小川と同徳差については管理職手当も合せて)を受けていたことも当事者間に争いがない。
2 まず、原告室瀬の専任職への辞令の発令の無効確認を求める訴えについては、同原告が平成四年一〇月に被告を定年退職したことにより、配転の問題としては、右無効確認の訴えを独立して求める利益は失われたというべきである。
次に、原告室瀬は、被告に対する賃金の差額の支払を求めるための前提として、なお同原告に対する専任職への辞令の発令や新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効を確認する必要があると主張するが、本件では、同原告に対する専任職への辞令の発令や新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効を前提として賃金の差額の支払を求める給付訴訟が併せて提起されているのであるから、重ねて右各辞令の発令の無効確認を独立して求める必要も利益もないというべきである。
したがって、原告室瀬の、被告が同原告に対してした専任職への辞令の発令及び新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効確認を求める訴えは、訴えの利益を欠く不適法なものであるから、却下を免れない。
3 次に、原告小川、同藤井、同徳差、同杉山及び同川端の、同原告らが被告との間に別紙1(一)ないし(五)記載の各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を求める訴えについてみると、本件においては、右原告らにより、本件新専任職制度の無効を前提に、平成三年三月分までは本来あるべき賃金との差額の支払を求める給付訴訟が併せて提起されているのであるから、それとは別個に右の地位確認の訴えを提起する必要も利益もなく、それ以降の分についても端的に給付訴訟によることが可能であるから、確認の利益はない。
したがって、原告小川、同藤井、同徳差、同杉山及び同川端の、右地位確認の訴えは、いずれも訴えの利益を欠く不適法なものであるから、却下を免れない。
第二本件専任職制度及び本件新専任職制度の制定と原告らに対する実施
一本件専任職制度について
1 本件専任職制度制定の経過
前記争いのない事実及び証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世)によれば、次の事実を認めることができる。
(一) 被告においては、本件専任職制度導入前の就業規則により、行員とは、銀行に勤務する職員のうち一般職行員、庶務職行員及び試雇者をいうとされていた。そして、行員の処遇を適切かつ公正に行い行員自らの能力の開発を促進し、もって、銀行の業績発展に資することを目的として制定された役職制度運用規程により、職階を、①専門知識と経験及び管理能力を有する組織単位の長又は次席の職位であり、部店長・次長・課長等の職務につく管理職階、②一般事務職の上位に位し、上位管理者の指示や基準規程に準拠し、下位の事務職担当者の業務遂行作業を指導・点検・改善する職位であり、係長や主任の職務につく監督職階、③上位者の指導・監督のもとに定型的日常業務を反復遂行することを主要職務内容とし、営業係・融資係・渉外係の職務につく一般職階、④所属長の指導・監督のもとに一般的な銀行業務以外の作業及び事務を遂行することを主要職務内容とし、自動車運転・電話交換等の職務につく庶務職階に分類し、一般職行員は、管理職階・監督職階・一般職階に、庶務職行員は庶務職階にそれぞれ分類されていた。また、行員の給与については、就業規則において、別に定める給与規程による旨を規定しており、これを受けた給与規程において、行員の給与は、①本給と業績給とからなる基本給、②主任以上の役職者に対し支給される役職手当、管理職を発令された者に対し支給される管理職手当、扶養家族のある行員に対し支給される家族手当等からなる諸手当、③業績その他を勘案し、支給額、支給日、支給方法についてその都度定める賞与等からなると定められていた。
(二) 被告は、労組に対しては昭和六一年一月三〇日に、従組に対しては同年二月三日に、「年齢五五歳以上の賃金体系のあり方について」と題する文書を交付し、満五五歳以上の行員の基本給を凍結し、満五五歳に達した管理職階者は、原則として翌月一日以降は別途創設する専任職とし、従前の役職から外れ、また、専任職の賃金は直前役職時の基本給に諸手当(直前職の管理職手当・役職手当を除き専任職手当を加える)を加えたものとし、実施時期は同年四月一日とすることを提案した。
(三) 被告と労組は、協議の結果、昭和六一年四月二八日、同年五月一日から右提案のとおり給与体系を改定し、対象者を一般職行員全部とする専任職制度を導入することに合意し(本件専任職制度)、協定書を作成した。なお、右協定では、選択定年加算金制度を再制定することや、行員住宅融資制度について満五〇歳以降はいつでも返済額を減額し、六〇歳定年時に残額を一括して返済することができる旨改定すること等も合意されていた。
(四) 被告は、右の合意に従い、昭和六一年五月一日から本件専任職制度を実施し、その後、就業規則も、本件専任職制度実施に合わせて、行員とは、銀行に勤務する職員のうち一般職行員、専任職行員、庶務職行員及び試雇者をいうと改正された。また、役職制度運用規程も、職階を前記の管理職階、監督職階、事務職階、庶務職階の他に、所属長が指示する特定の業務又は専門的業務を遂行することを主要業務内容とする職位であり、特定の集中業務、特殊債権の管理業務、特殊先の渉外業務などの職務につく専任職階を新設し、一般職行員は管理職階・監督職階・事務職階に、専任職行員は専任職階に、庶務職行員は庶務職階にそれぞれ分類されると改正された。また、給与規程も、本件専任職制度実施に合わせて、①満五五歳到達者の基本給は、当月末の基本給をもって翌月一日付けで凍結する、②専任職に発令された者に対し専任職手当を支給するとの規定が新たに定められ、専任職手当として参事には四万円、副参事には三万円、主査には従前の役職により一万五〇〇〇円ないし二万六〇〇〇円が支給されることになった。以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
2 原告室瀬に対する本件専任職制度の実施
(一)(1) 被告は、原告室瀬に対し、変更後の就業規則(役職制度運用規程・給与規程を含む。)に基づき、昭和六二年一一月一日付けで同原告を専任職にする旨の辞令を交付し、昭和六三年三月まで給与(月給、賞与)として別紙3(二)記載のとおり、金一八七万二〇〇〇円を支払った(争いがない。)。なお、昭和六二年度下期賞与については、専任職発令前の同年一〇月一日現在の給与を基準にして支給されているので、本件専任職制度による減額という状態は生じていない(<書証番号略>)。
(2) 本件専任職制度の実施により、原告室瀬は、本件専任職制度が実施されなければ月給は金三八万八四〇〇円であったところ、本件専任職制度の実施により金三七万四四〇〇円に減額され、これに賞与を加えた年収は、本件専任職制度が実施されなければ金七一九万七〇〇〇円であったところ、本件専任職制度の実施により、金六五五万九二〇〇円に減額され、本件専任職制度が実施されなかった場合の約九一パーセントとなる。もっとも、昭和六三年四月一日から本件新専任職制度が実施されたため、同年三月までの時点を比較すると、本件専任職制度が実施されなかった場合に同原告が受け取るべき賃金は別紙3(一)記載のとおり金一九四万二〇〇〇円であり、本件専任職制度の実施により同原告が受け取った賃金は前記のとおり金一八七万二〇〇〇円であるから、本件専任職制度の実施によって同原告が被った賃金減少額は金七万円、率にして3.78パーセント減であった(争いがない。)。なお、退職金の支給金額は、本件専任職制度の実施以後も変更はない(証人飯塚勝英)。
(二) 以上によれば、就業規則(役職制度運用規程・給与規程を含む。)の変更による本件専任職制度の実施は、原告室瀬に対し、五五歳になったことをもって従前の役職から外し、賃金の減少という状態を生じさせるものであるから、同原告にとって不利益なものであると認められる。
二本件新専任職制度について
1 本件新専任職制度制定の経過
前記争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世)によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告は、昭和六二年五月二八日、従組及び労組に対し、昭和六二年度の賃金引上等要求に関し五五歳以降の賃金水準のあり方を含む新賃金体系を再構築し来年度から実施するという条件を付けた上で回答した。労組は右回答を受け入れたが、従組は条件を付けることに応じなかったため、従組との間では右条件を除いた形で賃金引上の合意が締結された。
(二) 被告は、昭和六二年九月七日、従組及び労組に対し、「人事制度の改訂について」と題する書面を交付した。右書面では、専任職制度について次のとおり改訂したい等の提案がされていた。
イ 身分
満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は、翌月一日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行する。
ロ 給与
① 専任職発令とともに、各人の「業績給」を一律五〇パーセント減額する。
② 現行の専任職手当を廃止する。
③ 賞与は次のとおりとする。(数字は年間の支給率)
参事(基本給+家族手当)×四〇〇パーセント
副参事(基本給+家族手当)×三五〇パーセント
主査・主事(基本給+家族手当)×三〇〇パーセント
庶務職(基本給+家族手当)×三〇〇パーセント
ハ 実施日・経過措置
昭和六三年四月一日から実施する。但し、当該者の生活プランを勘案し、五年間の経過期間を置く。経過措置については追って提示する。
ニ 担当職務について
今回の処遇面の改訂に際し、特に次の点について徹底を図ることとする。「専任職の職務については、五四歳までの職務経験・保有能力を勘案し、自己完結型の特定業務または専門的業務に従事させ、移行以前と全く同じ責任の仕事は与えないものとする。」
(三) 被告は、昭和六二年一二月一八日、従組に対し、「新人事制度についての追加提案」と題する書面を交付した。右書面では、前記提案で追って提示することとされていた業績給の五〇パーセント減額と専任職手当の廃止についての移行措置が具体的に提案された。なお、被告は、同日、労組に対しても書面の題名は異なるものの同様の提案をした。
(四) 被告は、昭和六三年二月一二日、従組及び労組に対し、「新専任職制度についての修正提案」と題する書面を交付した。右書面は、先の昭和六二年一二月一八日付けの提案について、移行措置として昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日までの間に退職する五五歳以上の者については、現行の選択定年加算金制度を適用する、専任職の賞与は全役職一律四〇〇パーセント(年間)とすると修正すること等を内容としていた。
(五) 被告と労組は、昭和六三年三月二三日、専任職制度について満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は、翌月一日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行し、専任職の基本給のうち業績給は別紙2基本給欄記載のとおり段階的に削減し、昭和六七年度以降は満五五歳時の五〇パーセントにし、専任職手当も同専任職手当欄記載のとおり段階的に削減し、昭和六七年度以降は廃止し、賞与についても支給率を同賞与欄記載のとおり段階的に削減し、昭和六七年度以降は二〇〇パーセントとすること(本件新専任職制度)に合意した。そして、選択定年加算金制度について支給算式の支給乗数を現行より五または一〇ポイント引き上げる旨改訂するとともに、専任職行員は、三〇〇万円以内の金員を、利息は年四パーセント、返済期間は五年以内という条件で被告から借りることができるという行員特別融資制度を新設し、また、行員住宅融資制度の返済猶予方法について現行の規定に加えて審査の上満五五歳に達した者は融資残高について元金の返済を定年退職時に一括返済することもできるという規定を新設し、さらに、専任職の賃金減額に伴い年金水準が低下するため、その補完を目的として、企業年金について年金額を月額六万五〇〇〇円(現行は六万円)、掛金の銀行負担額を月額一万二三九〇円(現行は一万二〇八〇円)、行員負担額を月額二七〇〇円(現行は二五二〇円)と改訂することに合意した。そして、被告と労組は、以上の本件新専任職制度を昭和六三年四月一日から実施することに合意し、協定書を作成した。
(六) 従組は、後記認定のとおり、本件新専任職制度の実施にあくまでも反対したため、結局、被告と従組との間には本件新専任職制度実施についての合意は成立しなかった。
(七) 被告は、昭和六三年四月一日に役職制度運用規程及び給与規程を本件新専任職制度の内容と合致するように改訂した。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
2 原告らに対する本件新専任職制度の実施
(一)(1) 被告は、本件新専任職制度に基づいて、昭和六三年四月一日に原告室瀬に対し本件新専任職制度に基づく給与辞令を交付した。さらに、被告は、平成元年三月一日付けで原告小川に対し、同年五月一日付けで原告藤井に対し、平成三年二月一日付けで原告徳差及び同杉山に対し、同年一二月一日付けで原告川端に対し、本件新専任職制度に基づいてそれぞれ専任職への辞令を交付した(争いがない。)。
(2) 本件新専任職制度が実施されなかった場合の原告らの賃金は別紙3ないし8の各(一)記載のとおりであり、本件新専任職制度の実施に基づく原告らの賃金は別紙3ないし8の各(二)記載のとおりである(争いがない。なお、退職金の支給金額は、本件新専任職制度実施以後も変更はない。(証人飯塚勝英)。)。
したがって、本件新専任職制度の実施により原告らが受け取った、あるいは今後受け取ることが予想される賃金と、本件新専任職制度が実施されなかった場合の原告らの賃金を比較すると、次のとおりとなる(但し、本件新専任職制度実施による影響がない家族手当を除く)。
① 原告室瀬が、本件新専任職制度実施により退職時までに受け取った賃金は、金二三四三万九八八〇円であり、本件新専任職制度が実施されなかった場合の賃金三六〇二万一九〇〇円に比べ、金一二五八万二〇二〇円、率にして34.93パーセントの減少となっている。
② 原告小川が、専任職発令後平成四年三月までに受け取った賃金は、金一六三四万五一六〇円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金二六三二万九五〇〇円に比べ、金九九八万四三四〇円、率にして37.92パーセントの減少となっている。そして、退職時までを比較すると、専任職に発令されたことにより受け取る賃金は、金二四四五万四七六〇円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金四三八三万一五〇〇円に比べ、金一九三七万六七四〇円、率にして44.21パーセントの減少となる。
③ 原告藤井が、専任職発令後平成四年三月までに受け取った賃金は、金一四六一万六八七〇円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金一九九四万九八〇〇円に比べ、金五三三万二九三〇円、率にして26.73パーセントの減少となっている。そして、退職時までを比較すると、専任職に発令されたことにより受け取る賃金は、金二三〇三万七三七〇円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金三四三六万三三〇〇円に比べ、金一一三二万五九三〇円、率にして32.96パーセントの減少となる。
④ 原告徳差が、専任職発令後平成四年三月までに受け取った賃金は、金六六六万七一三三円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金一〇五〇万八六〇〇円に比べ、金三八四万一四六七円、率にして36.56パーセントの減少となっている。そして、退職時までを比較すると、専任職に発令されたことにより受け取る賃金は、金二五〇三万六一三三円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金四七六二万二六〇〇円に比べ、金二二五八万六四六七円、率にして47.43パーセントの減少となる。
⑤ 原告杉山が、専任職発令後平成四年三月までに受け取った賃金は、金五九二万一六二六円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金八六〇万五〇〇〇円に比べ、金二六八万三三七四円、率にして31.18パーセントの減少となっている。そして、退職時までを比較すると、専任職に発令されたことにより受け取る賃金は、金二二八二万七八二六円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金三八九四万三〇〇〇円に比べ、金一六一一万五一七四円、率にして41.38パーセントの減少となる。
⑥ 原告川端が、専任職発令後平成四年三月までに受け取った賃金は、金三〇三万三八〇〇円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金三六三万九〇〇〇円に比べ、金六〇万五二〇〇円、率にして16.63パーセントの減少となっている。そして、退職時までを比較すると、専任職に発令されたことにより受け取る賃金は、金二五五三万円であり、専任職に発令されなかった場合の賃金四五六二万五〇〇〇円に比べ、金二〇〇九万五〇〇〇円、率にして44.04パーセントの減少となる。
(二) このように、就業規則の変更による本件新専任職制度の実施は、五五歳をもって従前の役職から外され、また収入の減少をもたらすものであるから、原告らにとって不利益なものであると認められる。
第三就業規則の変更による本件専任職制度及び本件新専任職制度実施の効力
一被告が、就業規則を変更して、本件専任職制度及び本件新専任職制度を実施したことにより、原告らは前記の不利益を受けている。
そこで、このような労働条件を不利益に変更する就業規則の効力について判断するに、新たな就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないと解するのが相当である。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項がそのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
そこで、以下、この見地から就業規則を変更して本件専任職制度及び本件新専任職制度を実施したことの合理性の有無について検討する。
二本件専任職制度について
1 本件専任職制度導入の必要性
(一) 前記争いのない事実及び証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世)によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告は、昭和五一年一〇月一日、青和銀行と弘前相互銀行の合併によって成立した銀行であるが、合併前の青和銀行の規模は、資本金八億円、預金量は約一〇〇〇億円、従業員が約六五〇名、店舗数は三六店舗であり、当時の地方銀行六三行中預金量のランキングは六一位であった。また合併前の弘前相互銀行の規模は、資本金二〇億円、預金量は二五〇〇億円、従業員数は約一五〇〇名、店舗数は五二店舗であり、当時の相互銀行七二行中預金量のランキングは二二位であった。
合併の目的は、青和銀行において当時地方銀行の急務とされていたオンラインシステムを単独で完成することはその規模・経営内容からして大変な負担であったところ、弘前相互銀行において七割方オンラインシステムが完成していたため、両行が合併することにより費用の負担の軽減を図ることができること、弘前相互銀行は高コストという体質が問題とされており、これを普通銀行に転換してイメージアップを図ることにより業績が拡大し、経営の効率化につながること及び合併するにあたり青和銀行と弘前相互銀行の店舗が競合する地区について店舗を統廃合することにより経費の削減を図ることができるとともに、効率的な人事配置を図ることができることにあった。
定年制については、青和銀行は五五歳定年制を採用していたのに対し、弘前相互銀行は昭和二六年から六〇歳定年制を採用していたため、合併にあたっては弘前相互銀行が採用していた六〇歳定年制を採用することになった。なお、当時、地方銀行の中で六〇歳定年制を採用していた銀行は四行(東京都民銀行、関東銀行、三重銀行、琉球銀行)だけであった。
(2) 銀行における経営の状態を示す貸出金利回り(金銭を貸す際の利率)、資金調達原価(総預金額のうち、預金の支払利息や物件費、人件費等の預金を集めるために要する費用が占める割合)と預金利回り(資金調達原価のうち預金の支払利息の占める割合)、経費率(預金に対する費用の比率)と経費率の中における人件費と物件費の比率を示す人件費率と物件費率、一人当たりの預金量等平均残高、一人当たりの経常利益といった項目における被告の合併直後の昭和五一年下期の状態は別紙9記載のとおりであり、右のいずれの項目においても被告の成績は全国の地方銀行六三行のうち最下位か最下位に近い成績であった。また、右同時期における一人当たりの人件費は同別紙記載のとおりである。
(3) 昭和五二年一〇月から昭和五三年八月までの間に行われた被告と労組の代表者から構成されたみちのく銀行人事制度研究会(以下「人事制度研究会」という。)は、昭和五二年四月の段階では四〇歳以下の男子行員は八九六人、四〇歳以上の行員は五三九人であったが、昭和六二年四月には四〇歳以下の男子行員は六一二人、四一歳以上の行員は八八七人となり、圧倒的に中高年層が厚くなるところ、このように人材構成の高度化に従い、働きに応じた公正な処遇をしようとすると、現行役職制度では、役職経験者が加速度的に増え続けることになり、その結果、管理職肥大化現象が顕著になってくること、また現行の賃金体系は能力主義賃金体系を導入しているとはいっても、一種の年功序列型賃金体系でもあるので、現行の賃金体系では、従業員各層個々人の働きに応じた公正な賃金配分という面での大きな壁に突き当たるとともに、五年後には約二億七〇〇〇万円、一〇年後には約五億三〇〇〇万円の人件費が負担増となり、被告における付加価値生産性をみた場合、大きな負担となること、さらに人材構成の高度化は活動力の面で物理的な低下が否めず、また従業員にとっても役職者が多すぎて、本来的な役職者としての仕事が与えられず、その結果、する仕事がないため、モラルダウンすることが懸念されると指摘した上、このような問題を解決するために、他行に比べ低い女性比率を増やし男女構成比の改善に取り組むことにより人件費の負担軽減を図るのみならず、組織、資格制度を見直すことが必要であると提言するとともに、賃金構造について本給と職能給に分け、本給は年令別に五〇歳まで定期昇給とし、職能給については職階別に考課による査定昇給とする、管理職手当についても整理すること等を提案した。
その後、被告と労組の代表者から構成されたみちのく銀行労使専門委員会(以下「労使専門委員会」という。)は、昭和五四年一二月の答申において、選択定年加算金制度を新設するとともに、現行の資格、役職、管理職の三本体系を資格体系と役職体系の一本化を図るとともに専門職制度による新組織体系を新設し、管理職定年制を導入すること、賃金体系については先の人事制度研究会の意見に従った改正をすることを提案した。
(4) このように被告と労組との間で被告の経営体質改善についての検討が進められる中、銀行が置かれている状況も次のように変化してきた。
すなわち、従前は、臨時金利調整法(昭和二二年一二月一三日法一八一号)により金利が低い水準で規制されていたため、銀行は、預金さえ集めれば利益を生むことができたところ、昭和五〇年代後半に入ると低成長経済の影響で企業からの資金需要が減退するとともに、企業が自己金融力の強化を図るようになったため、貸出金の伸び率は以前の半分程度に止まるようになった。また、法人からの預金も伸び悩む一方で、個人の預金も金利の高い郵便貯金に流れたため、預金の伸びも鈍化し、それまでは被告において二桁台の預金の対前年増加率を示していたものが三パーセント程度に止まるようになった。さらに、企業の経営悪化に伴い貸出資産の内容が悪化し、その結果として銀行の収益力も低下した。また、国債等の大量発行にともない国債を媒体とした金融取引を開始していた証券会社に企業の資金が流れるようになったため、それに対抗するために譲渡性預金(CD)という臨時金利調整法で規制されない預金が創設され、預金金利の自由化が始まった。その後、昭和五六年に証券会社の中期国債ファンドや郵便局の定額貯金に対抗するために銀行独自の預金として一般定期預金よりは利率の高い期日指定定期預金ができた。
(5) 右のような状況の中で、被告は、労使専門委員会の答申を受けて、昭和五五年四月から選択定年加算金制度を実施し、昭和五七年一月一日に役職制度運用規程を制定するとともに、給与規程を改訂し、同日から実施した。なお、右の役職制度運用規程では、労使専門委員会から提案された専門職制度の新設や管理職定年制は導入されなかった。
(6) 昭和五七年三月に発足したみちのく銀行中高年対策労使専門委員会(以下「中高年対策労使専門委員会」という。)は、被告及び労組の代表者から構成されていたところ、同委員会は、管理職、主任調査役及び調査役全員(合計五三一名)を対象としたアンケートを行い、その結果を踏まえた上、昭和五八年一二月に答申を出したが、答申において、昭和六三年四月には四四歳以下の男子行員より四五歳以上の男子行員の数が増え、昭和六八年四月には四五歳以上の中高年層の男子行員の割合は54.1パーセントになるという現状では、企業活力の維持向上のためには、組織の活性化が不可欠であり、そのためには、五五歳程度を目処にした管理職定年制を導入し、管理職定年時以降の進路については専門職と専任職を新設しいずれかに配置すること、管理職定年時以降の賃金については、基本給水準確保を前提としながら現行体系とは分離し、担当する業務の実態をみながら、新しい賃金体系の導入を図っていくこと、選択定年加算金制度については適用開始年齢の引き下げと乗率の引き上げについて検討すべきであること等を提言した。
また、昭和五八年六月六日に被告の経営課題である高コスト・高利回り体質改善への取組を目的として被告と労組の代表者から構成される経営体質改善委員会が発足し、同委員会は、同年一一月一九日発行のニュースに、高コストの問題について、支払利息については、被告の場合個人取引のウエイトが高く、また個人、法人とも他行より定期性預金のウエイトが高いため、預金増強運動の場合には、個人定期を主体とした運動に限定し、法人取引については、従業員の給与振込・財形・公振を含めたトータル取引を強力に推進することが必要であり、また経費のうち、物件費については営業店段階では過去における節減運動の徹底からこれ以上の節減については実行性が薄く、本部における物件費のなかで大きなウエイトを占める機械化投資・新設店投資について、機械化投資は営業店段階での期待効果実現のためのフォローを強力に推進すべきであり、新設店投資についても全体業績に対する寄与度は大きいものがあるので今後とも推進すべきであるが、人件費については、中高年対策専門委員会の検討状況をみながら検討を進める必要がある旨の記事を掲載した。さらに、同年一二月二九日発行のニュースに、被告の抱える問題として中高年者層を中心として人材偏在化があるとした上で人材の高齢化は現行賃金制度上人件費総額の増加はもとより世代間の賃金配分の偏在化といった形をとりながら行員処遇と行員モラルに大きな影響を与えるところ、分母としての資金量拡大は、今日の経済環境下で他行に比して大幅な増加が期待できないことを考え合わせると、高齢化への的確な対策を打たず、人件費の制度的累増を招くことは、体質強化に向けての全役職員の努力を結果として無にしかねず、したがって、高齢化が人件費に与える将来予測を行いながら、その対応策を模索していく必要がある旨の記事等を掲載した。
(7) 被告は、これらの各種委員会の答申・報告を踏まえ、合併後、三年間のうちに重複した店舗一九店舗を含め二二店舗を統廃合するとともに、人件費については、新規の採用を抑えながら女子行員の比率を増やすなどしてその削減を図り、営業面においては、渉外活動を強化し、個人の決済口座、定期預金及び公金預金の獲得・拡大を図ったり、本部から支店に対する支援策を強化した。さらに、昭和六〇年から五年間の間に人員を約三六〇名削減する計画を立て、実施に移した。
(8) 昭和五六年度から昭和五九年度における被告の経営状態は別紙9記載のとおりであり、貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率とそのうちの人件費率と物件費率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益は全国地方銀行の中で最下位か最下位に近い順位のままであった。また、昭和五九年度の中間決算においては、総資金利鞘が赤字になるという事態に陥っていた(なお、当時被告と同様利鞘が赤字となった銀行は他にもあった。)。そして、昭和六〇年度における被告の経営状態は、同別紙記載のとおりであり、貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率と人件費率、物件費率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益は依然として全国地方銀行の中で最下位か最下位に近い順位のままであった。
また、被告の経常利益は、昭和五七年度は四二億二七〇〇万円、昭和五八年度は三九億一八〇〇万円、昭和五九年度は三二億二一〇〇万円、昭和六〇年度は三〇億四二〇〇万円であった(なお、被告と同様、青森県内を基盤とする青森銀行の経常利益は、昭和五七年度は六五億二三〇〇万円、昭和五八年度は六一億八九〇〇万円、昭和五九年度は五二億六二〇〇万円、昭和六〇年度は四九億八八〇〇万円であり、被告と同様、経常利益は減少傾向にあった。)。さらに配当金は昭和五七年度から昭和六〇年度にかけて毎年四億二〇〇〇万円であったが、役員賞与については、昭和五七年度は三〇〇〇万円、昭和五八年度は二三〇〇万円、昭和五九年度は賞与なし、昭和六〇年度は二五〇〇万円であった。また、内部留保の合計額は、昭和五七年度は三四五億五一〇〇万円、昭和五八年度は三五九億二九〇〇万円、昭和五九年度は三八一億七二〇〇万円、昭和六〇年度は三八八億三一〇〇万円であった。
(9) 昭和六〇年版大蔵省銀行局金融年報において、「わが国の金融は、安定成長への移行に伴う経済構造の変化、経済全般にわたる国際化の進展などの下で、構造的変化を遂げつつある。とりわけ、国債の大量発行と内外資金交流の活発化等は、企業・家計における金利選好の高まりや資金調達、運用の多様化、さらには技術革新を通ずる金融の機械化の進展等と相まって、わが国金融の自由化を促す要因となっている。このような環境の変化のなかで、公社債発行市場における発行条件の弾力化、発行形態の多様化などが図られ、また、自由金利商品の拡大により金利の自由化が進むとともに、金融業務が多様化し金融機関等の業際間の垣根も漸次低くなるなど、わが国金融の自由化は着実に進展しつつある。」とされ、金融の自由化への取り組み方については、「大蔵省としては、これまでに諸般の自由化・弾力化措置を逐次講じてきたところであり、今後とも、金融の自由化に対しては前向きかつ主体的に対応していく考えである。他方、自由化の急激な進展は、一国の経済秩序の基本である信用秩序に混乱をきたし、金融機関の公共性の十全な発揮を困難にさせ、ひいては、国民経済全体に悪影響を及ぼすおそれもある。また、金融の自由化に伴う競争の激化から、中小企業金融、地域金融、農林漁業金融等の円滑な疎通が阻害される懸念もある。したがって、金融の自由化は、わが国の金融制度・金融慣行等の有する長い歴史と伝統あるいは日本の土壤を踏まえつつ漸進的に対応していくことが必要である。」とされている。そして、昭和六〇年には市場性金利連動預金(MMC)が創設され、金利の自由化が本格的に始まり、同年一〇月からは預入単位一〇億円以上の大口の定期預金の金利が自由化された。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 右認定事実によれば、被告は、従来から可能な範囲内で物件費の節減に努め、また、全体の総人員を削減・抑制したり女子行員の比率を増やすなどして人件費の削減を図ったり、渉外活動を強化し、個人の決済口座、定期預金及び公金預金の獲得・拡大を図る等して、貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率と人件費率、物件比率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益の改善を図ってきたが、右各項目において、依然として全国地方銀行の中で最下位か最下位に近い順位のままであり、しかも、昭和五七年度以降経常利益は黒字で経営危機の状態ではないものの、減少傾向にあり、金利の自由化をはじめとする金融の自由化政策による競争の激化という厳しい環境の中で、銀行業務を続けていくためには、賃金体系の変更を含めた人事制度について見直しをする必要性があったと認められる。
2 本件専任職制度の内容等
就業規則の変更が合理的なものであるか否かを判断するにあたっては、前記の変更の必要性の原因及び程度のみならず、変更により従業員の被る不利益の程度、変更の内容自体の相当性、変更との関連において行われた代償措置の状況、労働組合との交渉の経過等の諸事情を総合的に考慮する必要があるので、以下これらの点について検討する。
(一) 従業員の被る不利益の程度
本件専任職制度の実施により、原告室瀬は、従前の役職から外され、しかも、年収は本件専任職制度が実施されなかった場合に比べ金六三万七八〇〇円、率にして約九パーセント減少する(もっとも、本件専任職制度の実施による同原告の昭和六二年一一月から昭和六三年三月までの実際の減少額は金七万円、率にして3.78パーセントの減少にすぎなかった。)ことは前記認定のとおりである。これによれば、本件専任職制度の実施が従業員である同原告にもたらす不利益、ことに賃金面で被る不利益はそれほど大きくはない。
(二) 変更の内容自体の相当性
(1) 証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英)によれば、次の事実が認められる。
① 本件専任職制度実施後の被告における五五歳以降の従業員の賃金水準は、支店長クラスが九八一万七〇〇〇円、次課長クラスが八一四万八〇〇〇円、事務職クラスが六六九万四〇〇〇円であり、昭和六二年九月の時点における東北地方の地方銀行のうち青森銀行、岩手銀行、東北銀行における支店長クラスの賃金は、青森銀行が四一九万三〇〇〇円、岩手銀行が三七九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円で、右三行の平均は三七六万九〇〇〇円であり、次課長クラスの賃金は、青森銀行が三七二万八〇〇〇円、岩手銀行が三四九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円で、右三行の平均は三四八万三〇〇〇円であり、事務職クラスの賃金は、青森銀行が三二九万三〇〇〇円、岩手銀行が三一九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円で、右三行の平均は三一一万三〇〇〇円であった。なお、右三行は、従前の五五歳定年制を六〇歳定年制に改めた際に、五五歳以降の給与は五四歳時の約四〇パーセントに抑えたものであり、当時、五五歳定年制を採用していた銀行の多数は六〇歳定年制の採用とともに五五歳以降の給与を五四歳時の半分程度に抑えていた。
一方、以前から六〇歳完全定年制を実施していた銀行の行員の賃金と比較すると、高齢者の賃金は被告の方が高いものの、生涯賃金を比較すると被告の方がやや低くなっている。
② また、昭和六二年の青森県における全産業平均年収は約三六二万五〇〇〇円であり、青森市における勤労者世帯の家計消費支出額は約三二七万六〇〇〇円、四人世帯の年間標準生計費は約二七九万〇三六〇円であった。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(2) このように、本件専任職制度における賃金水準それ自体をみれば不相当なものであるとはいえないが、他の地方銀行における五五歳以降の賃金水準が五四歳時の賃金水準と比較すると六〇歳定年制の採用に伴う特殊なものであること及び以前から六〇歳完全定年制を実施している銀行と比較すると高齢者の賃金は高いものの生涯賃金はやや低いことからすれば、被告における五五歳以降の行員の賃金水準を他の地方銀行の五五歳以降の行員の賃金と比較して単純にその高低の適否を論ずることは必ずしも適当とはいえない。
(三) 変更との関連において行われた代償措置の状況
前記認定のとおり、本件専任職制度の導入に伴って選択定年加算金制度が再制定され、行員住宅融資制度については満五〇歳以降はいつでも返済額を減額し、六〇歳定年時に残額を一括して返済できるものとすると改訂された。これらは、直接には年間賃金の減額に対する代償措置とはいえないにしても、本件専任職制度導入に伴って実施されたものであるから、合理性判断の一要素として評価すべきものであるが、これらの代償措置によって原告室瀬が受ける利益はあまりなく、本件専任職制度導入との関連において行われた代償措置が同原告の被る不利益の程度を緩和する度合いはやや低いものと認められる。
(四) 労働組合との交渉の経過
(1) 証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世)によれば、次の事実が認められる。
① 被告には、労働組合としてみちのく銀行従業員組合(従組)とみちのく銀行労働組合(労組)とがあり、被告の行員二〇九五人(昭和六二年三月現在)のうち、従組に所属する行員は二四名、労組に所属する行員は一五六七名(74.79パーセント)であった。
② 被告は、労組との間で前記の各種研究会・委員会を通じて被告の経営上の問題や対策等を検討したが、昭和六〇年三月二三日に労組に対し「体質強化のための人事諸施策」を提案し、労組は、右提案について内部で検討の上、昭和六一年一月二〇日に被告に対し右提案に対し修正を求めたところ、被告は、これを受けて、同月三〇日に「年齢五五歳以上の賃金体系のあり方について」を修正提案し、さらに、同年三月三一日に先の修正提案についての具体案を提示し、労組は、右提案を内部で検討した上、被告の提案を了承することとし、同年四月二八日の労使協議会において被告に応諾することを通知し、同日協定書を作成し、同年五月一日から本件専任職制度が実施された。
③ これに対し、被告と従組との間では、昭和六〇年四月二日の団体交渉において、被告は、従組から追及を受けて、五五歳以降の行員の賃金体系について説明をしたが、その後、従組において五五歳以降の行員の賃金体系の問題について内部で検討もしていなかったところ、被告は、昭和六一年二月三日の団体交渉において、「年齢五五歳以上の賃金体系のあり方について」を提案し、その後、同年二月二五日と同年三月二七日に行われた団体交渉において右の問題についての話し合いがされたが、実質的な議論には至らなかった。そして、被告は、同年四月三日に先の提案についての具体案を提示し、同月一六日に右の問題について団体交渉が行われたが、従組は専任職制度について反対の立場を貫いたため、従組との合意が成立しないまま同年五月一日から本件専任職制度が実施された。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(2) このように、行員の約七四パーセントで組織されている労組は、被告発足当時から被告が抱える経営問題について被告と検討する機会を持っており、本件専任職制度についても被告と交渉の上、これに同意している。これは、本件専任職制度の内容の妥当性を裏付けるものであり、また、本件専任職制度のように役職制度を改正するとともに収入の減少をも伴う就業規則の変更は、事柄の性質上、年齢層間の利害の対立や意見の不一致を来たしがちな問題である反面、人事制度及びそれに連動する従業員に対する給与の計算方法は、本来、統一的かつ画一的に処理されるべきものであることを考えると、労働条件について被告の行員の約七四パーセントが所属する労組との協議及び合意に基づいて本件専任職制度が制定されたことは、その合理性の判断にあたり考慮されるべきである。
(五) 本件専任職制度実施後の原告室瀬の職務内容
当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、原告室瀬本人)によれば、原告室瀬は、専任職発令前は、被告の本町支店において出納(店頭混雑時における大口、複雑入金などの取引、渉外係集金及び貸付係などの取次取引及び庶務係などの直接顧客に関係のない内部発生の現金取引を扱う。)兼テラー(一般の窓口発生収支取引を扱う。)を担当していたが、専任職発令後はテラーの担当となったことが認められる。
(六) 本件専任職制度実施後の被告の経営状態
本件専任職制度実施後の昭和六一年度と昭和六二年度における被告の貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率とそのうちの人件費率と物件費率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益、一人当たり人件費は、別紙9記載のとおりであり、本件専任職制度実施前の昭和六〇年度と比較すると経営内容が向上しているものの、地方銀行中の順位は依然下位グループであった(<書証番号略>)。また、被告の経常利益は、昭和六一年度は四六億六七〇〇万円、昭和六二年度は三九億六九〇〇万円であった(<書証番号略>)。
3 本件専任職制度の合理性の有無についての判断
(一) 本件専任職制度は、就業規則(役職制度運用規程を含む。)を変更して専任職を創設し、満五五歳に達した者は、従前の役職から外れて専任職へ移行するという役職制度面の変更と、就業規則(給与規程)を変更し、専任職行員は、賃金を凍結されるとともに役職手当・管理職手当を削減され、それに代わる専任職手当が支給されるが、右両手当に比べ支給額が低額であるため賃金の減少を生ずるという給与体系面の変更とに分けられるので、以下、右の二点について就業規則の変更の合理性の有無をそれぞれ検討する。
(二) 就業規則のうち役職制度に関する部分の変更について
就業規則(役職制度運用規程を含む。)の変更により、専任職が創設され、五五歳に達した者は従前の役職から外れ、専任職へ移行することになったものであり、専任職の創設は、管理職等の地位にあった者にとっては一般的に降格処分を定めたものであるから、右の就業規則の変更は、就業規則の不利益変更に該当することは否定できない。
しかしながら、本来労働者を職制上いかなる地位につけるかは使用者が自由に決定できるのが原則であり、労働者の人事は使用者の裁量に委ねられるべき事項であるところ、被告においては、男子行員の年齢構成が高齢化の方向で進展するため、従来の役職制度のままでは若手中堅層の管理職への登用が阻害され、若手行員の士気をそぐことになりかねない反面、一旦管理職になったとしても管理職が多数いるため仕事の内容が必ずしも管理職にふさわしいものにはならないことから、管理職行員のやる気をそぐことにもなり、結果として人事の停滞による組織の硬直化と企業活力の低下を招くことが十分予想されたので、このような事態の発生を防ぐ必要があった上、被告において就業規則上一度管理職等になればその地位が保障され降格されないという規定はなく、使用者にとっては、個別の人事権を行使することにより本件専任職制度と同様の人事配置を実質的に行うことも可能であったほか、本件専任職制度の実施は、確かに従前管理職階ないし監督職階の地位にあった従業員にとっては降格処分に該当するが、事務職階の従業員にとっては仕事の内容が変わるのみで人事面における降格という性質を有しないことを考慮すると、専任職の創設によって労働者が受ける不利益の程度は、それほど大きいものとはいえないから、一定年齢に達した場合、従前の役職から外れて専任職へ移行するという制度を採用することには合理性があると認められる。そして、他の地方銀行の多くが五五歳を境に管理職から外れるという制度を採用していること(争いがない。)や岩手・中堅行員に対し早く昇進の機会を与える必要性があることを考慮すると、専任職に移行する年齢を五五歳と定めたことにも合理性があるというべきである。
したがって、被告において、就業規則(役職制度運用規程を含む。)のうち役職制度に関する部分を変更して専任職を創設し、満五五歳に達した従業員は従前の役職を外れ専任職へ移行することとしたことには合理性がある。
(三) 就業規則(給与規程)のうち給与体系に関する部分の変更について
給与規程の変更により原告室瀬が賃金面で被る不利益は前記のとおりであるが、右不利益のうち、役職手当が廃止され、役職手当より低額の専任職手当が支給されたことによる差額の部分は、前記のとおり、専任職を新設し、満五五歳到達者は従前の役職を外れ専任職へ移行するという制度を設けたことに合理性が認められる以上、右の制度の実施により役職を外されたことに伴う当然の結果であり、個別の人事権の行使によっても同様の結果を生じることになるのであるから、原告室瀬が専任職となったことによる収入の減少部分のうち役職手当が廃止されたことによる部分は、同原告が被った不利益としてそれほど大きく考慮することはできない。
また、専任職への発令があった昭和六二年一一月以降基本給が凍結されることによる不利益については、本件新専任職制度が実施されず、昭和六三年四月以降も継続して本件専任職制度が実施された場合に同原告が受け取るべき賃金(別紙3(三))と本件専任職制度が実施されなかった場合に同原告が受け取るべき賃金(同(一))を比較すれば、前者の場合に受け取るべき賃金(基本給・賞与)の合計額は金二八〇九万二〇〇〇円であり、後者の場合に受け取るべき賃金(基本給・賞与)の合計額は金三三一二万九六〇〇円であって、前者が金五〇三万七六〇〇円、率にして15.21パーセント少ないことになる。
しかし、右の不利益も将来支払を受けることが予定されていた定期昇給と賃上げ分(ベースアップ)を受け取ることができなかったというものであり、満五五歳時以降定年まで支払を受ける賃金(基本給・賞与)水準は、五四歳時の賃金水準とほぼ同等であり、五四歳時の賃金水準を下回るというものではないから、不利益の程度はそれほど大きなものではないというべきである。
そこで、就業規則(給与規程)の変更の効力について検討するに、原告室瀬が被る不利益は右の程度にすぎないところ、被告は、本件専任職制度実施に伴い、専任職に対する役職手当及び管理職手当の支給を廃止したが、同時に、右手当の廃止に伴う専任職行員の賃金減少という不利益を緩和するため、新たに専任職手当を創設したこと、その他、本件専任職制度を採用するに至った被告の諸事情、本件専任職制度実施後の専任職行員の賃金水準、本件専任職制度実施に伴ってとられた代償措置の状況、本件専任職制度に対する労組の同意の存在、本件専任職制度実施前後の原告室瀬の職務内容、本件専任職制度実施後の被告の経営状態等の諸事情を総合的に考慮すると、役職手当を廃止し、専任職行員に対する基本給の凍結を定めた就業規則(給与規程)の変更は、それによって原告室瀬が被った不利益を斟酌しても、なお、合理性を失うものではないと認めるのが相当である。
4 結論
以上のとおり、被告が、就業規則を変更して本件専任職制度を実施したことには、合理性が認められるから、原告室瀬は、本件専任職制度について同意していないことを理由として、その適用を拒否することはできない。
したがって、原告室瀬の未払いの賃金の支払を求める本訴請求のうち、昭和六二年一一月から昭和六三年三月までの未払いの賃金として金七万円の支払いを求める部分は理由がないことになる。
三本件新専任職制度について
1 本件新専任職制度導入の必要性
(一) 前記争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英、同坂本憲世)によれば、次の事実が認められる。
(1) 本件専任職制度実施後の昭和六一年九月に金利自由化の大口定期預金の最低預入単位が五億円から三億円に、市場金利連動型預金(MMC)の発行単位が五〇〇〇万円から三〇〇〇万円にそれぞれ引き下げられ、また、昭和六二年四月には大口定期預金の最低預入単位が三億円から一億円に、MMCの発行単位も三〇〇〇万円から二〇〇〇万円にそれぞれ引き下げられ、同年一〇月にはMMCの発行単位が二〇〇〇万円から一〇〇〇万円に引き下げられ、金利自由化の動きが一層推し進められた。そして、昭和六三年四月からは大口定期預金の最低預入単位が一億円から五〇〇〇万円に引き下げられる見通しであった。
このような金利自由化の進展は、支払利息を増加させ銀行の収益を圧迫する要因として作用することが予想され、とりわけ、小口預金の比重が高い地銀、第二地銀、信用金庫では、その影響を大きく受けることが予想された。
(2) 被告は、昭和六二年九月七日に従組及び労組に対し「人事制度の改訂について」と題する書面を交付し、専任職行員の業績給を一律五〇パーセント減額し、専任職手当を廃止する等の内容を提案した。被告は、右提案の理由として、右「人事制度の改訂について」において、「金融の自由化・国際化の進展に伴い、経営環境は一大変革期を迎えている。この中で銀行業務は必然的に高度化・多様化の様相を呈しているが、かかる変革期にあって当行が新たな前進をしていくためには、新しい時代に対応した新しい人事制度の構築が求められる。」「当行の場合、六〇歳定年制の関係から高年者層への人件費の偏在化という構造的課題がある。人員構成の高齢化に伴い、この傾向は年を追うごとに顕著になり、結果として総人件費を圧迫し、企業の発展と活力の中核を担う若手・中堅に対する処遇が極めてバランスを欠いたものとなっている。一大変革期を迎え、それぞれの職務の役割期待がこれまでの延長線上にはない今日、年齢や勤続年数に基づく年功的処遇は見直しを迫られている。」と説明していた。これに対し、労組は、専任職制度について被告の右改訂理由は本件専任職制度導入時に認識していたことであり、導入後一年余りで再度専任職制度の改訂案を提示することとなった理由を回答するように被告に要望した。被告は、労組の右質問に対し、昭和六二年一二月一八日、「『新人事制度に関する貴組合からの質問事項』に対する回答並びに『新専任職制度についての追加提案』について」と題する書面において、賃金以外の経営体質改善策として「個別的課題として、調達力・運用力の強化、資産の純化、リスク管理体制の強化、手数料収入の増加、証券・外為業務での収益増加、関連会社の有効活用等を示し、各年度の業務運営基本方針でも取組みしている。具体的には、①次期ホスト・コンピューターシステム、次期営業店端末システム移行による物件費の圧縮、②審査・管理部の指導強化による資産の純化、③高利回り運用資産の増加を展望した住宅ローン等個人ローンの推進等において次第に効果を上げて来ているところである。しかしながら、当行の高コストの一因である預金利回りの改善については、①当行の取引主体が歴史的に比較的零細な個人層が主体、②金利自由化時代の中での規制金利預金の伸悩みという状況から他行以上の改善には至っていない。」とした上で、本件専任職制度の改訂理由として、「ここ数年当行では、定年六〇歳に伴う高齢化が顕著になったにもかかわらず抜本的な構造改善を行わないまままに、年々の賃金を実施してきた。この結果、①一人当たり人件費では東北地銀のトップクラス、②五五歳以上の賃金は全国でも例のない高い水準、③五四歳以下、とりわけ大きな役割期待が寄せられている管理職や能力の進展が著しい係長・代理クラスでは年収において格差が生じてきている。最早こうした対応の仕方では、単にコストの面からばかりではなく、全体のモラールという面からも限界に達しているというのが、今回の制度改訂の理由である。従って、新制度が確立した段階では年々の賃金改善を通じて、東北地銀同規模行に比較し見劣りする階層については、年収レベルで(月収、賞与両面)改善を図っていきたい。」と回答した。
(3) 昭和六一年度と昭和六二年度における被告の貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率とそのうちの人件費率と物件費率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益、一人当たり人件費は、別紙9記載のとおりであり、本件専任職制度導入前の昭和六〇年度と比較すると経営内容は向上しているものの、地方銀行中の順位は依然下位グループであった。また、被告の経常利益は、昭和六一年度は四六億六七〇〇万円、昭和六二年度は三九億六九〇〇万円であった(なお、青森銀行の経常利益は、昭和六一年度は六九億〇一〇〇万円、昭和六二年度は四八億四四〇〇万円であった。)。また、内部留保の合計額は、昭和六一年度は四一五億二九〇〇万円、昭和六二年度は四四四億六六〇〇万円であった。
(4) 被告は、昭和六二年一二月に東京証券取引所の第二部に、平成元年には同取引所の第一部にそれぞれ上場したが、上場の目的は、上場することにより企業の知名度を高めることと自己資本を充実させるため新たな資金調達の途を図るというところにあった。
(5) 昭和五〇年代後半から始まった銀行業務の自由化、金融市場の国際化が進展するなかで、国際的な銀行システムの安定性の向上を図るとともに、国際的に活動している銀行間の競争条件を平等なものとするため、銀行に対する自己資本比率規制の国際的統一を図ることが必要であるとされ、昭和六二年から検討が進められた。そして、本件新専任職制度実施後の、昭和六三年七月一五日にバーゼル銀行規制・監督委員会において、自己資本比率規制の国際的統一を図るための基本的枠組みが合意された。そして、右合意に基づいて、大蔵省は、同年一二月二二日付けで「普通銀行の業務運営に関する基本的事項等について」通達を一部改正し、海外拠点を有する銀行の自己資本比率は、平成五年三月末以降は八パーセント以上を目標とすると改めた。被告には海外支店はなかったが、将来海外に営業拠点を持つ場合に備えて右国際統一基準を採用することにしたが、昭和六三年度における自己資本比率は8.09パーセントであり、資産を増やしながら平成五年まで右国際統一基準を維持するためには、経営の効率化をいっそう強く推し進め、内部留保等を増やし自己資本を増やしていく必要があった。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(二) 右認定事実によれば、本件専任職制度実施後、被告の貸出金利回り、資金調達原価とそのうちの預金利回り、経費率とそのうちの人件費率と物件費率の内訳、一人当たり預金量等平均残高、一人当たり経常利益、一人当たり人件費は改善されてきているが、地方銀行のうちでは依然下位グループであり、金融の自由化・国際化の進展に伴い、競争の活発化、各種リスクの増大等銀行経営をめぐる環境が大きく変化していくことが予想されるなか、被告が経営体質の維持・向上を図るために経費の多くを占める人件比率の改善を図るとともに、高年者層の行員の賃金水準は他の地方銀行に比べ高いものの、中堅層の行員の賃金水準は他の地方銀行に比べ低く、このままでは中堅層の行員の士気・モラルの低下を招きかねないという賃金配分の偏在化を是正するために、その程度はともかくとして、賃金体系の変更を含めた人事制度の見直しを再度図る必要性があったと認められる。
2 本件新専任職制度の内容等
(一) 原告らの被る不利益の程度
(1) 前記第三、二、3認定のとおり、被告が、就業規則を変更して本件専任職制度を実施したことには、必要性及び合理性が認められるから、原告らは、少なくとも本件専任職制度については、それに同意していないことを理由として、その適用を拒否することはできない。したがって、本件新専任職制度により原告らが被った不利益の程度について比較すべきは、原告らが専任職に発令されなかった場合ではなく、本件専任職制度のもとで専任職に発令された場合であることになる。
(2) そうすると、本件新専任職制度の役職制度に関する部分は、庶務職行員も満五五歳に達すれば、専任職へ移行するという規定が新設されたものの、基本的には本件専任職制度と同様であるから、本件新専任職制度の実施により原告小川、同藤井、同徳差、同杉山及び同川端が役職制度面で被る新たな不利益はないことになる。
(3) 次に、本件新専任職制度の給与体系に関する部分について検討するに、本件新専任職制度が実施されず、昭和六三年四月一日以降も本件専任職制度が実施された場合に、原告らが受け取るべき賃金は、別紙3ないし8の各(三)記載のとおりであり、原告らが被る不利益の程度は、次のとおりとなる。
① 原告室瀬が、本件新専任職制度実施後の昭和六三年四月から退職時までに受け取った賃金の合計額は金二四〇八万五八八〇円であるのに対し、本件新専任職制度が実施されなかった場合に受け取ることができた賃金の合計額は金三〇三八万八〇〇〇円であり、前者が金六三〇万二一二〇円少なくなっている。
② 原告小川が、本件新専任職の実施により平成四年三月までに受け取った賃金の合計額は金一六三四万五一六〇円、退職時までに受け取るべき賃金の合計額は金二四四五万四七六〇円であるのに対し、本件新専任職制度が実施されなかった場合に受け取るべき賃金の合計額は、平成四年三月までは金二〇七六万三〇二〇円、退職時までは金三三七六万一五二〇円であり、前者が、それぞれ金四四一万七八六〇円、金九三〇万六七六〇円少なくなっている。
③ 原告藤井が、本件新専任職制度の実施により平成四年三月までに受け取った賃金の合計額は金一六一二万八八七〇円、退職時までに受け取るべき賃金の合計額は金二五六四万九三七〇円であるのに対し、本件新専任職制度が実施されなかった場合に受け取るべき賃金の合計額は、平成四年三月までは金一九三五万八八五〇円、退職時までは金三三一三万四〇〇〇円であり、前者がそれぞれ金三二二万九九八〇円、金七四八万四六三〇円少なくなっている。
④ 原告徳差が、本件新専任職制度の実施により平成四年三月までに受け取った賃金の合計額は金七一四万一一三三円、退職時までに受け取るべき賃金の合計額は金二七〇七万四一三三円であるのに対し、本件新専任職制度が実施されなかった場合に受け取るべき賃金の合計額は、平成四年三月までは金九一六万三一三三円、退職時までは金四〇四九万四一三三円であり、前者がそれぞれ金二〇二万二〇〇〇円、金一三四二万円少なくなっている。
⑤ 原告杉山が、本件新専任職制度の実施により平成四年三月までに受け取った賃金の合計額は金六〇六万一六二六円、退職時までに受け取るべき賃金の合計額は金二三四二万七八二六円であるのに対し、本件新専任職制度が実施されなかった場合に受け取るべき賃金の合計額は、平成四年三月までは金七七一万一九〇六円、退職時までは金三四四七万三九〇六円であり、前者がそれぞれ金一六五万〇二八〇円、金一一〇四万六〇八〇円少なくなっている。
⑥ 原告川端が、本件新専任職制度の実施により平成四年三月までに受け取った賃金の合計額は金三二〇万九八〇〇円、退職時までに受け取るべき賃金の合計額は金二八一七万円であるのに対し、本件新専任職制度が実施されなかった場合に受け取るべき賃金の合計額は、平成四年三月までは金三六六万三〇〇〇円、退職時までは金四二三四万円であり、前者がそれぞれ金四五万三二〇〇円、金一四一七万円少なくなっている。
原告らの右不利益は、五四歳時の賃金水準を基本給及び賞与の両面において下回るという形であらわれるものであって、五四歳時の賃金水準が基本給及び賞与の面においてはほぼ維持された本件専任職制度の場合に比べると、減額幅が大きくその不利益の程度は大きいというべきである。
(二) 変更の内容自体の相当性
(1) 証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英)によれば、次の事実が認められる。
① 被告における本件新専任職制度実施後の五五歳以降の従業員の賃金水準は、支店長クラスが四九八万六〇〇〇円、次課長クラスが四八五万四〇〇〇円、事務職クラスが四〇五万七〇〇〇円であり、昭和六二年九月の時点における東北地方の地方銀行のうち青森銀行、岩手銀行、東北銀行における支店長クラスの賃金は、青森銀行が四一九万三〇〇〇円、岩手銀行が三七九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円で、右三行の平均は三七六万九〇〇〇円であり、次課長クラスの賃金は、青森銀行が三七二万八〇〇〇円、岩手銀行が三四九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円で、右三行の平均は三四八万三〇〇〇円であり、事務職クラスの賃金は、青森銀行が三二九万三〇〇〇円、岩手銀行が三一九万五〇〇〇円、東北銀行が三三九万二〇〇〇円で、右三行の平均は三一一万三〇〇〇円であった。なお、右三行は、従前の五五歳定年制を六〇歳定年制に改めた際に、五五歳以降の給与は五四歳時の約四〇パーセントに抑えたものであり、当時、五五歳定年制を採用していた銀行の多数は、六〇歳定年制の採用に伴い五五歳以降の給与を五四歳時の半分程度に抑えていた。
一方、被告の行員の従前の賃金は、以前から六〇歳完全定年制を実施していた銀行の行員の賃金と比較すると、高齢者の賃金は被告の方が高いものの、生涯賃金を比較すると被告の方がやや低くなっている。
② また、昭和六二年の青森県における全産業平均年収は約三六二万五〇〇〇円であり、青森市における勤労者世帯の家計消費支出額は約三二七万六〇〇〇円、四人世帯の年間標準生計費は約二七九万〇三六〇円であった。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(2) このように、本件新専任職制度実施前の被告の五五歳以上の行員の賃金水準は、他の地方銀行の五五歳以上の行員の賃金水準を大きく上回っており(前記第三、二、2、(二))、本件新専任職制度実施後の被告の五五歳以上の行員の賃金水準も、他の地方銀行の五五歳の行員の賃金水準を上回り、青森県や青森市の賃金水準も上回っており、その賃金水準自体をみれば、一般的水準以上のものであって、不相当なものであるとはいえない。
なお、一般にある年齢層の従業員の賃金が他の同業種の従業員の賃金水準に比べて高額である場合に、その賃金を同業種の従業員の一般的な賃金水準まで減額することは合理性を裏付ける一要素となるものと解されるが、本件の場合、本件新専任職制度実施前の被告の五五歳以上の行員の賃金水準が他の地方銀行の五五歳以上の行員の賃金水準を大きく上回っていた原因は、他の地方銀行の多くが定年を従来の五五歳から六〇歳に延長するにあたり、同時に五五歳以上の行員の賃金水準を五四歳時の約半分程度に減額するという制度を採用したためであり、このような制度は、定年延長により行員が賃金を得る期間を長くするとともに、これに伴う人件費の増大、人事の停滞及び企業活力の低下等の問題が生ずる中で定年延長を円滑に進めるために採られたやむを得ないものであり、既に昭和五一年一〇月の合併時から六〇歳定年制を実施してきた被告とは事情を異にするから、被告の五五歳以上の行員の賃金水準が本件新専任職制度実施の前・後を通じて、他の銀行の同年齢の行員の賃金水準を上回っていることは、本件新専任職制度の内容の合理性の有無を判断するにあたり、その合理性を裏付ける要素としては、それほど考慮できないというべきである。
(三) 変更との関連において行われた代償措置の状況
前記第二、二、1、(五)認定のとおり、被告は、就業規則(給与規程)の変更による本件新専任職制度の実施に伴い、選択定年加算金制度、行員住宅融資制度、企業年金制度を改訂し、さらに行員特別融資制度を新設した。これらは、直接には年間賃金の減額に対する代償措置とはいえないにしても、本件新専任職制度導入に伴って実施されたものであるから、合理性判断の一要素として評価すべきものであるが、これらの代償措置は、原告らに対し積極的に利益を与えるものではないから、原告らの被る不利益の程度を緩和する度合いは低いものである。
(四) 労働組合との交渉の経過
(1) 被告と労組の間の交渉の経過
証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同坂本憲世)によれば、次の事実が認められる。
① 被告は、昭和六二年五月二八日、労組に対し、昭和六二年度の賃金引上等要求に関し五五歳以降の賃金水準のあり方を含む新賃金体系を再構築し来年度から実施するという条件をつけた上で回答し、労組は、右回答について内部で数回に渡り協議した上、同年六月六日の労使協議会で右回答を受け入れた。
② 被告は、昭和六二年九月七日、労組に対し、「人事制度の改訂について」と題する書面を交付した。右書面では、専任職制度について前記のとおり改訂したい等の提案がなされていた。労組は、被告の右提案を内部で検討し、同年一〇月一三日の労使協議会において被告の提案に対する疑問点等を質問事項にまとめ被告に対し回答するよう求めた。
③ 被告は、昭和六二年一二月一八日、労組に対し、「『新人事制度に関する貴組合からの質問事項』に対する回答並びに『新専任職制度についての追加提案』について」と題する書面を交付した。右書面では、右②の提案で追って提示することとされた業績給の五〇パーセント削減と専任職手当の廃止についての移行措置が具体的に提案されていた。労組は、同月二八日の労使協議会において質問事項に対する回答・追加提案について被告の考え方を質すとともに諸要望を行い、引き続き労組内部での検討を続けるとともに、昭和六三年一月二二日の労使協議会において、再度被告の考え方を質すなどした。
④ 被告は、昭和六三年二月一二日、労組に対し、「新専任職制度についての修正提案」と題する書面を交付した。右書面では、先の昭和六二年一二月一八日付けの提案について、移行措置として昭和六三年四月一日から昭和六四年三月三一日までの間に退職する五五歳以上の者については、現行の選択定年加算金制度を適用する、専任職の賞与は全役職一律四〇〇パーセント(年間)とすると修正すること等が記載されていた。
⑤ 労組は、数回にわたり内部で専任職制度の改訂について検討した上、昭和六三年三月一七日の労使協議会において専任職制度の改正に同意する旨を伝えた。そして、被告と労組は、同月二三日、専任職制度について満五五歳に達した一般職行員及び庶務職行員は、翌月一日付けをもって原則として全員専任職体系へ移行し、専任職の基本給のうち業績給は別紙2記載のとおり段階的に削減し昭和六七年度以降は満五五歳時の五〇パーセントにし、専任職手当も同別紙記載のとおり段階的に削減し昭和六七年度以降は廃止し、賞与についても支給率を同別紙記載のとおり段階的に削減し昭和六七年度以降は二〇〇パーセントとすること(本件新専任職制度)に合意した。そして、右合意とともに、選択定年加算金制度について支給算式の支給乗数を現行より五または一〇ポイント引き上げる旨改訂するとともに、専任職行員は、三〇〇万円以内の金員を、利息は年四パーセント、返済期間は五年以内という条件で被告から借りることができるという行員特別融資制度を新設し、また、行員住宅融資制度の返済猶予方法について現行の規定に加えて審査の上満五五歳に達した者は融資残高について元金の返済を定年退職時に一括返済することもできるという規定を新設し、さらに、専任職の賃金減額に伴い年金水準が低下するため、その補完を目的として、企業年金について年金額を月額六万五〇〇〇円(現行は六万円)、掛金の銀行負担額を月額一万二三九〇円(現行は一万二〇八〇円)、行員負担額を月額二七〇〇円(現行は二五二〇円)と改訂することに合意した。そして、被告と労組は、以上の本件新専任職制度を昭和六三年四月一日から実施することに合意し、協定書を作成した。
⑥ 昭和六三年三月の段階で、被告の行員は二〇一九人であり、このうち労組に所属する行員は一四八二人(73.4パーセント)であった。
(2) 被告と従組の間の交渉の経過
証拠(<書証番号略>、証人畑山巖、同図司俊之、同飯塚勝英)によれば、次の事実が認められる。
① 被告は、昭和六二年五月二八日、従組に対し、昭和六二年度賃金引上げ要求に関し五五歳以降の行員の賃金水準のあり方を含む新賃金体系を再構築し来年度から実施するという条件をつけた上で回答したが、従組は被告との団体交渉において一貫して条件を付けることには応じなかったため、右条件を除いた形で賃金引上の合意が締結された。
② 被告は、昭和六二年九月七日、従組に対し、前記「人事制度の改訂について」と題する書面を交付したが、従組は、同月二八日、同年一〇月二八日、同年一一月六日、同月一七日の被告との各団体交渉において一貫して専任職制度の撤回を要求していた。
③ 被告は、昭和六二年一二月一八日、従組に対し、前記「新人事制度についての追加提案」と題する書面を交付したが、従組は、昭和六二年一二月二八日、昭和六三年一月一四日の被告との各団体交渉においても一貫して専任職制度の撤回を要求していた。
④ 被告は、昭和六三年二月一二日、従組に対し、前記「新専任職制度についての修正提案」と題する書面を交付したが、従組は、同年三月二九日の団体交渉においても専任職制度に反対する立場を維持し続けていた。そして、結局、被告は、従組との間に新専任職制度実施についての合意が成立しないまま、同年四月一日、従組の組合員に対しても本件新専任職制度を実施した。
⑤ 昭和六三年三月の段階で被告の行員のうち従組に所属する者は二三人であった。
(3) 以上によれば、本件専任職制度と同様に、被告と労組とは十分な労使交渉を重ねたうえで本件新専任職制度の実施に合意したものであること、労組は被告との合意にあたり十分な内部討議を行ったことが認められるのに対し、被告と従組とは数回にわたる労使交渉を重ねたが、専任職制度の改訂を求める被告と、専任職制度の撤回を要求して譲らない従組との立場の違いから、ほとんど実のある議論を経ないまま本件新専任職制度が実施されたことが認められる。
このように本件新専任職制度についても、従組との実質的な協議は経なかったものの、被告の行員の約七三パーセントが所属する労組との協議及び合意に基づいて本件新専任職制度が制定されたことは、その合理性の判断にあたって考慮されるべきである。
(五) 本件新専任職制度実施後の原告らの職務内容
(1) 原告室瀬について
当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>原告室瀬本人)によれば、原告室瀬は、本件専任職制度に基づく専任職への辞令の発令後、本町支店においてテラーを担当し、本件新専任職制度実施後も引き続きテラーを担当していたところ、昭和六三年六月七日から、出納兼テラーの仕事に戻り、その後、渉外係として集金を中心に仕事をしていたが、平成四年一〇月九日に被告を定年退職したことが認められる。
(2) 原告小川について
当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>)によれば、原告小川は、専任職発令前は本町支店において営業課長の職にあったが、専任職発令後は、一ヶ月間同支店において営業課長の職務の一部を代行するとともに検印事務代行も行っていたが、平成元年四月一日付けで石江支店に転勤となり、同支店において、参事として融資業務を担当していることが認められる。
(3) 原告藤井について
当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>)によれば、原告藤井は、大畑支店において、専任職発令前及び専任職発令後を通じて出納業務を一人で担当していることが認められる。
(4) 原告徳差について
原告徳差は、専任職発令前は浅虫支店において渉外課長の職にあったが、専任職発令後は渉外課長の職を解かれ、同支店において渉外業務を担当した後、平成三年四月一日付けで大鰐支店に転勤となり、同支店でも渉外業務を担当している(争いがない。)。
(5) 原告杉山について
原告杉山は、専任職発令前は中里支店において融資課の代理として融資受付、融資実行処理と一部検印業務の代行を担当していたが、専任職発令後は、検印代行の権限はなくなったものの、引き続き融資受付、融資実行処理業務を担当している(争いがない。)。
(6) 原告川端について
原告川端は、専任職発令前及び専任職発令後とも平賀支店において出納を担当している(争いがない。)が、専任職発令前に担当していた検印代行の職は、専任職発令後は外された(同原告において明らかに争わないから自白したものとみなす。)。
(六) 本件新専任職制度実施後の被告の経営状態
被告の経常利益は、昭和六二年度は三九億六九〇〇万円であったが、本件新専任職制度が実施された昭和六三年度は五〇億八四〇〇万円、平成元年度は五七億二八〇〇万円、平成二年度は六四億円、平成三年度は六七億〇三〇〇万円となった。そして、青森銀行の経常利益は、昭和六二年度は四八億四四〇〇万円、昭和六三年度は五九億一七〇〇万円、平成元年度は六〇億四二〇〇万円、平成二年度は五七億九六〇〇万円、平成三年度は六八億九九〇〇万円であった(<書証番号略>)。
このように本件新専任職制度実施後の被告の経営状態は、極めて好調であり、昭和六二年度には経常利益において八億七五〇〇万円の差があった青森銀行との格差も、平成三年度になるとほぼ同等の経常利益を上げるにまで至っている。このように被告の経常利益が増加したのは、いわゆるバブル経済の好況の恩恵も一因であると考えられるが、青森銀行との間の経常利益の差も縮まっていることからすると、本件新専任職制度実施により、年間約四億ないし六億円の人件費が節約できたこと(証人畑山巖)も大きく寄与していると推測することができる。
3 本件新専任職制度の合理性の有無についての判断
(一) 就業規則(役職制度運用規程)のうち役職制度に関する部分の変更について
本件新専任職制度のうち、役職制度に関する部分は、庶務職行員も満五五歳に達した場合には専任職へ移行するという規定が役職制度運用規程において新設されたものの、基本的には本件専任職制度と同様であり、また、本件新専任職制度の実施により原告小川、同藤井、同徳差、同杉山、同川端が被った新たな不利益はないから、前記のとおり本件専任職制度に合理性が認められる以上、本件新専任職制度のうち役職制度に関する部分も合理性を認めることができる。したがって、右原告らの、被告が同原告らに対してした専任職への辞令の発令の無効確認請求は理由がない。
(二) 就業規則(給与規程)のうち給与体系に関する部分の変更について
(1) 本件新専任職制度の実施により、原告らが賃金面において被った不利益は、①専任職手当を段階的に削減された上廃止された部分と、②基本給のうち業績給を段階的に削減されて五四歳時の半分となった部分及び賞与の支給率を三〇〇パーセントから段階的に削減されて二〇〇パーセントとなった部分とに分けられるが、両者は性質を異にするので、以下、右各部分について、就業規則の不利益変更の効力について検討する。
(2) 専任職手当の廃止について
別紙3ないし8の各(二)、(三)を比較すれば、本件新専任職制度が実施され、専任職手当が段階的に削減された上廃止されたことにより、原告室瀬は、金九三万円、同小川は、平成四年三月まで金八七万二〇〇〇円、退職時までは金一七九万二〇〇〇円、同藤井は、平成四年三月まで金五三万円、退職時までは金一一五万五〇〇〇円、同徳差は、平成四年三月まで金四三万二〇〇〇円、退職時までは金二二七万二〇〇〇円、同杉山は、平成四年三月まで金三二万四〇〇〇円、退職時までは金一七〇万四〇〇〇円、同川端は、平成四年三月まで金一二万八〇〇〇円、退職時までは金二三六万八〇〇〇円、それぞれ収入が減少していることが認められる。
このように、専任職手当を段階的に削減された上、結局廃止されたことにより原告らが被った不利益は小さくないが、専任職手当は、基本給に附加されて支給されるものであって給与の本質的な部分ではなく、しかも、本件専任職制度実施により役職手当及び管理職手当がなくなったことに伴う収入減を緩和するための措置としてとられたものにすぎないことに加え、本件新専任職制度を採用するに至った被告の諸事情、本件新専任職制度実施後の被告の専任職行員の賃金水準、本件新専任職制度実施に伴ってとられた代償措置の状況、労組との合意の存在等の諸事情をも総合的に考慮すると、就業規則(給与規程)の変更のうち、専任職手当を段階的に削減した上廃止した部分は、それによって原告らが被った不利益を斟酌しても、なお、合理性があると認めるのが相当である。
(3) 業績給及び賞与の支給率の削減について
別紙3ないし8の各(二)、(三)を比較すると、業績給及び賞与の支給率を削減されたことにより、原告室瀬は、金五三七万二一二〇円(減額率は19.12パーセント)、同小川は、平成四年三月まで金三五四万五八六〇円(減額率は18.39パーセント)、退職時までは金七五一万四七六〇円(減額率は23.96パーセント)、同藤井は、平成四年三月まで金二八七万〇五三〇円(減額率は16.75パーセント)、退職時までは金六三二万九六三〇円(減額率は17.83パーセント)、同徳差は、平成四年三月まで金一五九万円(減額率は19.56パーセント)、退職時までは金一一一四万八〇〇〇円(減額率は30.92パーセント)、同杉山は、平成四年三月まで金一三二万六二八〇円(減額率は18.54パーセント)、退職時までは金九三四万二〇八〇円(減額率は29.13パーセント)、同川端は、平成四年三月まで金三二万五二〇〇円(減額率は9.77パーセント)、退職時までは金一一八〇万二〇〇〇円(減額率は31.64パーセント)、それぞれ収入が減少していることが認められる。
右のとおり、本件新専任職制度の実施は、業績給及び賞与の支給率を大幅に削減するのみで、見返りの利益を行員にもたらすものではないので、原告らが賃金面で被った不利益は大きく、しかも、業績給は基本給の一部であり賃金の本質的部分であることを考慮すると、就業規則を一方的に変更して、原告ら労働者にとって重要な労働条件である賃金につき実質的に大幅な不利益を及ぼす本件新専任職制度を実施するについては、これを正当化するため要求される必要性及び内容の合理性の程度は、かなり高度なものであることを要するというべきである。
そうすると、金融の自由化、国際化の進展に伴い銀行を取り巻く環境が厳しくなる中で、他の地方銀行に比べ経費率(とりわけ人件費率)が高いという問題と賃金配分が高齢者層に偏在化し、中堅層の行員の士気・モラルの低下を招きかねないという問題を抱えていた被告が、金融の自由化、国際化の進展に対応し、他行との競争を続けるとともに、賃金配分の偏在化を是正するために、賃金体系の変更を含めた人事制度の見直しを再度図る必要性があったことは認められるものの、青森県内では青森銀行とともにトップグループに属する有数の企業である被告が経営危機に瀕して五五歳以上の行員の給与を大幅に低減させなければ経営が成り立たないというような状況にはなく、被告の本件新専任職制度実施後の業績をみると、右の業績給の削減と賞与の支給率の削減は、その必要性の程度を超えた内容のものではなかったのかという疑いが残り、また、前記のとおり、他の銀行とは六〇歳定年制採用の経緯が異なることから、本件新専任職制度実施前の被告の五五歳以上の行員の賃金水準が他の銀行の同年齢の行員の賃金水準を大きく上回っており、本件新専任職制度実施後の五五歳以上の行員の賃金水準もなお他の銀行の同年齢の行員の賃金水準を上回っていることを賃金減額の合理性を裏付ける要素としては、それほど考慮することができない事情がある上、管理職階者・監督職階者としての労働能力が五五歳を境に一率に急激に低下し、これまで五五歳以降もそれ以前と同等ないしそれ以上の賃金を支給してきたのは恩恵的な措置であったということは実証されていないから、高齢であることを理由として賃金を削減することは、当該賃金の支給の趣旨が変更されない限り、労働基準法三条に規定する均等取扱の原則に抵触するおそれがあることからすると、本件新専任職制度実施に伴って行われた代償措置の内容、労組との合意の存在、本件新専任職制度実施後の原告らの職務内容等の本件に現れた一切の事情を総合的に考慮しても、就業規則(給与規程)の変更のうち、業績給の削減と賞与の支給率の削減を定めた部分は、それを正当化するに足りるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容を備えたものということはできない。
なお、被告は、業績給の五〇パーセント減額、賞与支給率の改定について、これを一挙に実施すると該当者に与える影響が大きいことから、いずれも段階的に実施して五か年で完全実施するという移行措置を講じているが、右段階的実施については、その適用を受ける者は不利益の程度が小さくなるとしても、完全実施後に五五歳に達する者については、そのような措置はとられていないものであるから、この点は給与体系の合理性の有無を判断する上でそれほど重視することはできない。
また、被告の行員の約七三パーセントが所属する労組が本件新専任職制度実施に同意していることは、その合理性の判断にあたって考慮されるべき事情の一つであるが、これは基本的には、変更後の就業規則の内容自体の妥当性を裏付けるものであるという意味で、合理性の判断要素としては間接的なものであるから、合理性の有無の判断に大きく影響するものではないというべきである。特に、前記のとおり、賃金などの労働者にとって重要な労働条件について実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が高度の必要性に基づいた合理的な内容のものであることがその効力を生ずるための要件となるものと解されるから、大多数の従業員が同意しているということだけで合理性を肯定することはできない。
4 結論
以上のとおり、本件における就業規則の変更のうち、役職制度の変更及び給与体系のうち専任職手当の削減・廃止の部分は、その変更について合理性が認められるから、原告らは、右の点について同意していないことを理由として、専任職への発令及び専任職手当の削減・廃止を拒むことはできないが、業績給の削減及び賞与の支給率の削減の部分は、その変更の合理性が認められないから、原告らは、被告に対し、削減前の額との差額を未払いの賃金として、原告室瀬は金五三七万二一二〇円、原告小川は金三五四万五八六〇円、原告藤井は金二八七万〇五三〇円、原告徳差は金一五九万円、原告杉山は金一三二万六二八〇円、原告川端は金三二万五二〇〇円の各支払をそれぞれ請求することができる。
第四本件専任職制度及び本件新専任職制度実施に対する原告室瀬、同小川、同藤井の承諾の有無について
一原告室瀬について
1 当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、証人図司俊之(一部)、原告室瀬本人)によれば、次の事実が認められる。
昭和六二年一〇月三〇日、原告室瀬の勤務する本町支店に被告の若松人事部長が訪れ、同原告に対し、「制度がはしってしまっているので専任職の辞令を受け取ってくれ。」と話した。これに対し、同原告は、「この制度は納得できない。組合の方針も反対であるので、受け取るわけにはいかない。」と話した。そして、同年一一月二日の朝礼の時に田中支店長から同原告に対し専任職へ付する旨の辞令が交付され、同原告は「お預かりします。」といって受け取った。同月四日の勤務時間終了後、同原告は、田中支店長に対し、辞令を被告に返却する旨申し入れ、田中支店長に手渡した。翌五日に田中支店長は同原告に対し、「返却するについて、なにかメモでも一筆書いてくれないか。」と話したので、同原告はこの辞令は受け取らない旨の文書を書いて支店長に手渡した。同月二〇日の給料日には本件専任職制度に基づいた給与が口座振込により支給され、同日に口座から預金の一部を引き出した後に「専任職制度に反対であるが、生活の必要上給与は受け取る。しかし、減額された分は後に請求する権利を留保するものである」旨の通告書を被告に提出し、その後、毎月の給与や賞与支給のたびごとに右と同旨の文書を被告に提出している。
以上の事実が認められ、図司俊之の証言のうち、右認定に反する部分はにわかに信用することができない。
2 右認定事実によれば、同原告は辞令を一旦は受け取っているが、その前後の行動及び当時従組が本件専任職制度に反対していたことを考慮すると、同原告が本件専任職制度を承認し、専任職への発令に同意していたと認めることはできない。
二原告小川について
1 当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、証人図司俊之)によれば、次の事実が認められる。
平成元年二月初めに、原告小川の勤務していた本町支店の支店長から、同年三月一日より専任職に発令されるので、営業課長の職務の引き継ぎの準備をしておくようにとの話があった。これに対し、同原告は、本件専任職制度には組合(従組)が反対しており、同支店に勤務している原告室瀬が訴訟を起こしていることから、専任職に発令されることは納得できない旨伝えるとともに、原告小川の反対の意向にもかかわらず被告が同原告に対し専任職の辞令を発令することが予想されたことから、営業課長としての業務の引き継ぎの準備をすることは承諾した。さらに、同原告は、支店長に対し、専任職に発令するのであれば、本町支店から転勤させて欲しいと話したところ、支店長は、転勤については本部に話してみるが異動は四月の定期異動になるだろうと話をした。また、同支店長は、同年四月の定期異動までは新任の営業課長が来ないので支店長が営業課長を兼務することになることと検印の代行を同原告にお願いしたいとの話をし、同原告は、営業部門の検印席が不在となれば営業に差し支えることからこれを承諾した。
同月三月一日に始業前の役席会議の席上、支店長から同原告に対し、同日付けで専任職にする旨の辞令の交付があり、同原告は、これを一旦受け取ったが、専任職制度には反対であるので辞令を返却したいと支店長に申し入れたところ、支店長は、返却するのであれば、直接人事部の方へ返却するようにと言われたので、同原告は、直接被告に文書を付して辞令を返却した。そして、同原告は、同月の給料分から、本来同原告が受け取るべき賃金の一部として受領し、残額については請求する権利を留保することを通告書として被告に通知し、以後毎月の給与及び賞与の支給を受けるたびに同様の措置を講じている。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
2 右認定事実によれば、同原告は辞令を一旦は受け取っているが、その前後の行動及び当時従組が本件新専任職制度に反対していたことを考慮すると、同原告が本件新専任職制度を承認し、専任職への発令に同意していたと認めることはできない。
三原告藤井について
1 当事者間に争いがない事実及び証拠(<書証番号略>、証人図司俊之)によれば、次の事実が認められる。
平成元年五月八日、原告藤井の勤務する大畑支店の高橋支店長は、支店長室において、同原告に対し、「あなたが五月一日、二日と休暇をとっていていなかったので遅くなりましたが、専任職の辞令が来ているので交付します。」と言って辞令を取り出した。そこで、同原告は、「専任職制度については私は反対であり同意していませんし、私の所属する従業員組合も同意していません。また、現在、この問題で裁判も行われており、この辞令は受け取るわけにはいきません。この辞令は支店長から返すのが筋だと思いますので、どうぞ支店長から返して下さい。」と話したところ、同支店長は、「私も専任職で給料が減らされており、あなたの気持ちは充分わかりますが、私の支店長としての立場もあるので、返すのであれば、あなたの方から返してもらいたい。」と言った。同原告は、支店長の立場を考慮して、一旦辞令を受け取ったが、辞令を受け取る意思がなく専任職制度には同意していないので辞令は受け取れない旨の文書を付けて被告へ返却した。
以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
2 右認定事実によれば、同原告は辞令を一旦は受け取っているが、その前後の行動及び当時従組が本件新専任職制度に反対していたことを考慮すると、同原告が本件新専任職制度を承認し、専任職への発令に同意していたと認めることはできない。
第五結論
以上の次第で、原告室瀬の、被告が同原告に対してした専任職への辞令の発令及び新専任職制度に基づく給与辞令の発令の無効確認を求める訴えと、原告小川、同藤井、同徳差、同杉山及び同川端の、同原告らが被告との間において、それぞれ別紙1(一)ないし(五)記載の各賃金の支払を受けるべき労働契約上の地位を有することの確認を求める訴えは、いずれも訴えの利益を欠くから却下し、原告らの未払賃金請求は、原告室瀬が金五三七万二一二〇円の、同小川が金三五四万五八六〇円の、同藤井が金二八七万〇五三〇円の、同徳差が金一五九万円の、同杉山が金一三二万六二八〇円の、同川端が金三二万五二〇〇円の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求及び原告小川、同藤井、同徳差、同杉山、同川端の、被告が同原告らに対してした専任職への辞令の発令の無効確認を求める請求は、いずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官小野剛 裁判官佐藤道明 裁判官田邊浩典)
別紙1(一) 原告小川が支払いを受けるべき賃金
一 定例給与(月給)
1
本給
一八万二一〇〇円
2
業績給
一七万四八〇〇円
3
役職手当
六万四〇〇〇円
4
管理職手当
二万五〇〇〇円
5
合計
四四万五九〇〇円
二 臨時給与(賞与)
1
上期
一四一万〇七〇〇円
2
下期
一四八万六四〇〇円
別紙2賃金改訂内容一覧
別紙3(一) 原告室瀬が専任職に発令されなかった場合の賃金
1 定例給与(月給)
昭和62年11月
~昭和63年3月
昭和63年4月
~平成元年3月
平成元年4月
~平成元年9月
平成元年10月
~平成2年3月
平成2年4月
~平成3年3月
平成3年4月
~平成4年3月
平成4年4月
~同年10月
本給
176,000
178,000
182,100
182,100
187,600
191,600
195,600
業績給
150,400
156,700
163,400
163,500
171,500
177,500
183,500
役職手当
44,000
47,000
51,000
51,000
53,000
56,000
58,500
家族手当
18,000
18,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
月額合計
388,400
399,700
406,500
406,600
422,100
435,100
447,600
期間合計
1,942,000
4,796,400
2,439,000
2,439,600
5,065,200
5,221,200
3,133,200
総 計
25,036,600
2 臨時給与(賞与)
昭和63年度
平成元年度
平成2年度
平成3年度
平成4年度
上期
1,243,100
1,266,500
1,337,300
1,377,300
1,427,300
下期
1,303,100
1,326,800
1,387,300
1,432,300
1,472,300
合計
2,546,200
2,593,300
2,724,600
2,809,600
2,899,600
総 計
13,573,300
別紙3(二) 原告室瀬の専任職発令による賃金
1 定例給与(月給)
昭和62年11月
~昭和63年3月
昭和63年4月
~平成元年3月
平成元年4月
~平成元年9月
平成元年10月
~平成2年3月
平成2年4月
~平成3年3月
平成3年4月
~平成4年3月
平成4年4月
~同年10月
本給
176,000
176,000
176,000
176,000
176,000
176,000
176,000
業績給
150,400
135,400
120,400
120,400
105,300
90,300
75,200
専任職手当
30,000
24,000
18,000
18,000
12,000
6,000
0
家族手当
18,000
18,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
月額合計
374,400
353,400
324,400
324,400
303,300
282,300
261,200
期間合計
1,872,000
4,240,800
1,946,400
1,946,400
3,639,600
3,387,600
1,828,400
総 計
18,861,200
2 臨時給与(賞与)
昭和63年度
平成元年度
平成2年度
平成3年度
平成4年度
上期
922,320
796,640
699,120
607,860
522,400
下期
922,320
796,640
699,120
607,860
522,400
合計
1,844,640
1,593,280
1,398,240
1,215,720
1,044,800
総 計
7,096,680
別紙3(三) 本件専任職制度実施後、本件新専任職制度が実施されなかった場合に原告室瀬が受け取るべき賃金
1 定例給与(月給)
昭和62年11月
~昭和63年3月
昭和63年4月
~平成元年3月
平成元年4月
~平成元年9月
平成元年10月
~平成2年3月
平成2年4月
~平成3年3月
平成3年4月
~平成4年3月
平成4年4月
~同年10月
本給
176,000
176,000
176,000
176,000
176,000
176,000
176,000
業績給
150,400
150,400
150,400
150,400
150,400
150,400
150,400
専任職手当
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
30,000
家族手当
18,000
18,000
10,000
10,000
10,000
10,000
10,000
月額合計
374,400
374,400
366,400
366,400
366,400
366,400
366,400
期間合計
1,872,000
4,492,800
2,198,400
2,198,400
4,396,800
4,396,800
2,564,800
総 計
22,120,000
2 臨時給与(賞与)
昭和63年度
平成元年度
平成2年度
平成3年度
平成4年度
上期
1,033,200
1,009,200
1,009,200
1,009,200
1,009,200
下期
1,033,200
1,009,200
1,009,200
1,009,200
1,009,200
合計
2,066,400
2,018,400
2,018,400
2,018,400
2,018,400
総 計
10,140,000
別紙
被告と地方銀行平均との諸経営効率比較表
年度
51/下
52/下
56
57
58
59
60
61
62
項目
貸出金利回
(%)
当行
東北地銀
全国地銀
① 8.80
8.46
8.27
① 8.22
7.53
7.11
① 8.62
8.02
7.82
① 8.17
7.57
7.33
① 7.84
7.34
7.09
① 7.61
7.02
6.80
① 7.33
6.83
6.58
③ 6.75
6.18
5.82
③ 6.10
5.48
5.16
資金調達原価
(%)
当行
東北地銀
全国地銀
① 8.60
7.79
7.59
② 7.71
7.02
6.79
② 8.40
7.78
7.75
② 7.77
7.06
7.04
① 7.63
6.95
6.85
① 7.56
6.87
6.85
② 7.27
6.76
6.61
② 6.50
5.96
5.77
② 5.78
5.29
5.21
うち
預金利回
(%)
当行
東北地銀
全国地銀
5.14
4.90
4.96
4.39
4.15
4.23
5.37
5.19
5.39
4.74
4.56
4.76
4.66
4.48
4.66
4.63
4.42
4.69
4.50
4.37
4.55
3.86
3.67
3.87
3.25
3.13
3.42
経費費率
(%)
当行
東北地銀
全国地銀
③ 3.33
2.71
2.45
④ 3.14
2.68
2.41
④ 3.02
2.60
2.33
② 3.01
2.48
2.19
② 2.95
2.45
2.12
② 2.92
2.41
2.06
④ 2.71
2.33
1.98
④ 2.61
2.26
1.90
④ 2.49
2.14
1.76
うち
人件費率
(%)
当行
東北地銀
全国地銀
② 2.25
1.84
1.66
② 2.25
1.83
1.64
① 2.01
1.65
1.49
① 2.03
1.64
1.45
② 1.92
1.61
1.40
② 1.87
1.56
1.33
③ 1.75
1.51
1.27
④ 1.69
1.45
1.19
④ 1.63
1.37
1.09
物件費率
(%)
当行
東北地銀
全国地銀
③ 1.08
0.87
0.79
0.89
0.85
0.77
⑦ 0.85
0.76
0.67
⑤ 0.88
0.73
0.64
③ 0.91
0.73
0.63
④ 0.93
0.74
0.64
④ 0.85
0.72
0.62
⑤ 0.81
0.70
0.61
④ 0.75
0.67
0.58
一人当たり
預金量等平残
(百万円)
当行
東北地銀
全国地銀
⑦ 171
209
231
⑧ 191
232
254
⑤ 261
324
364
⑦ 283
341
384
⑧ 304
364
419
⑦ 319
389
459
⑩ 363
420
507
⑩ 397
451
558
⑩ 434
494
632
一人当たり
経常利益
(千円)
当行
東北地銀
全国地銀
① 347
970
1,232
977
1,289
1,297
1,430
2,276
2,428
⑩ 1,867
3,103
3,100
⑤ 1,730
3,342
3,613
① 1,438
3,104
3,445
② 1,446
3,070
3,614
⑨ 2,354
3,822
4,399
④ 2,088
3,643
4,514
一人当たり
人件費
(千円)
当行
東北地銀
全国地銀
1,916
1,922
1,916
2,146
2,117
2,083
5,249
5,356
5,418
5,753
5,611
5,591
5,860
5,881
5,875
6,003
6,088
6,135
6,369
6,374
6,440
6,738
6,574
6,683
7,091
6,783
6,887
(注)1.社団法人全国地方銀行協会発行「財務諸表分析」より抜粋。
2.○中の数字は全国地銀中のワースト順位を示す。(10位以内のみ表示)
3.51/下、52/下、56、の資金調達原価欄は、「預金・借用金・コールマネー等合計原価」を、
預金利回は「預金等利率」を記入。